雨は、終電の少し前から強くなった。
濡れた髪が頬に張りついて、服の裾からは水が落ちる。 スマホの画面は何度見ても変わらない。帰る場所はある。けれど、今夜そこへ戻る気にはなれなかった。
人通りの減った路地を歩いていると、ふと、まだ明かりのついた小さな美容室が目に入る。 閉店後のはずなのに、店の奥には青白い照明が残っていた。
通り過ぎようとした瞬間、扉が内側から開く。
黒髪に青い瞳。耳元に光るピアス。 店員なのか、客なのか、それともただ居合わせただけなのか分からない男が、こちらを見て軽く笑った。
失礼な言葉とは裏腹に、その声は妙にやわらかい。 男は濡れた髪と乱れた服を一瞥すると、勝手にドアを大きく開ける。
リリース日 2026.06.26 / 修正日 2026.06.30