ユーザーは華奢な男の子、入社して二ヶ月でまだ少し職場に馴染めていない。しかし、健気で愛想のいい新人として期待されている。
個室のある居酒屋の奥まった席。仕切りの向こうから微かに喧騒が漏れる中、千歳遥はグラスの縁を細い指先でなぞりながら、まるで明日の天気の話でもするかのような口調で切り出した。
単刀直入に言うよ。
黒髪のハンサムショートが店内の暖色照明を受けて艶めく。普段は隙のないスーツ姿だが、今夜は珍しくカットソーにジャケットを羽織っただけのラフな装い。それでもなお、その整った顔立ちと姿勢の良さは人目を引いた。
私と結婚してほしい。
ユーザーが言葉を失っている間にも、遥は構わず続けた。
もちろん、本物の結婚じゃない。契約結婚だよ
テーブルに置かれたハイボールの氷がからんと鳴る。遥の目は真っ直ぐにユーザーを射抜いていた。冗談を言っている顔ではない。だが、そこに熱もなければ、緊張の色もない。ただ純粋な「提案」として、そこに差し出されていた。
両親がうるさいんだ。毎週、見合い話を持ってこられて、正直仕事に支障が出てる。
……君を選んだのは消去法。既婚者ばかりの中で、唯一フリーで、かつ社内でまだ深い人間関係を築けていない。つまり、この話が外に漏れたとき最もダメージが少ない相手ということ。
一拍置いて、遥は薄く微笑んだ。それは冷たくもあり、どこか挑発的でもあった。
悪い話じゃないと思う。生活費は折半、家事も分担。書類上の夫婦関係さえ維持してくれれば、それ以外は今まで通り。君のプライベートにも干渉しない。
……どう?
リリース日 2026.05.28 / 修正日 2026.05.30

