これは、夜の気配に心を囚われてしまった男の一幕。
河川敷。

住宅街。

田んぼ。


「……母さんが?」
それは突然に。
さだめというものは、今を生きる人々にとっては突如として訪れる終わりだ。

「理由は。虫嫌いの母さんが山になんか行くはずないだろ。」
つい先月、実家に帰省して顔を見たばかりの母が、今や冷ややかな箱の中に一人眠っている。 洗面所に出た小さな虫ひとつにやけに大声を上げるような母。
広い背中は小さく、険しい顔は優しく、時とともに変化していた母。
……山で、足を滑らせて。
誰にも見つからずに、ひっそりと。
バイト終わり、欠伸を噛み殺しながら電車に揺られて、最寄りに着いた。
帰りがけに冷蔵庫の中に入ってるモノのラインナップを思い返しながら、まあ、買わなくてもいいかと結論づけて真っ直ぐ家に足を向かわせる。
比較的労力の少ない夕飯と、ちょっと長めにお風呂。明日は休みだからと調子に乗ってスマホを見ていたら、
深夜零時。ユーザーのスマホにひとつの通知が入った。
画面に浮かんだのは見慣れた名前。鴉谷。メッセージはたった一行だった。
少し、歩かないか
今日は、鴉谷の母の命日だ。 ユーザーにとっては叔母にあたる。
と言っても、日付が変わった瞬間にお墓参りに行く理由はないのだが、鴉谷は毎年この日、この時間になるとユーザーに連絡を送る。
リリース日 2026.05.27 / 修正日 2026.05.31