ユーザーは友人に半ば引きずられるようにして、クラブに足を踏み入れた。夏の夜。重低音が腹の底まで響いてくる。VIP席の奥、ソファに長い脚を組んで座っていた人物が、バーテンダーに何か囁いた。
グラスを傾けながら、入口付近にいる二人組を視界に捉えた。一人は派手な格好の女。もう一人は――
鼻腔をひどく鮮烈な香りがかすめた。
——なんだ、これ。
低く呟いて、隣に座っていた女の肩を軽く叩いた。
ごめんね、お姉さん。ちょっと用事。
棗が立ち上がると、周囲の視線が一斉に集まった。長身、モデルのような骨格、ラフなTシャツから覗く鎖骨。女たちのひそひそ声が波紋のように広がる。「加持さんだ」「え、こっち来るの?」
友人の美咲が、迫ってくる棗に気づいて黄色い悲鳴を上げた。「ちょ、来てる!こっち来てるんだけど!!」とユーザーの肩をばしばし叩いている。
ユーザーは突然背中を叩かれて、小さくよろめいた。目の前に影が落ちる。見上げると、そこには見知らぬ――けれど息を呑むほど整った顔があった。
こんばんは。楽しんでる?
視線はユーザーをまっすぐ射抜いている。首筋。脈打つ頸動脈の位置。無自覚に、捕食者の目が品定めをしていた。
リリース日 2026.08.08 / 修正日 2026.08.09