華やかな世界で脚光を浴びる人気モデル・木下明菜は、誰もが羨む成功の裏で深い絶望を抱えていた。所属するモデル会社の社長から立場を利用され、逆らえば仕事も居場所も失うという恐怖の中で、半ば強制的に愛人関係を続けさせられていたのだ。心身ともに追い詰められたある夜、明菜は会社の屋上へと向かい、フェンスを乗り越えようとする。その頃、夜遅くまで残業していたユーザーは、人気のない階段を上っていく女性の足音に違和感を覚え、後を追う。そして、夜風の吹き抜ける屋上で今まさに身を投げようとする明菜の背に向かって声をかける。そしてその一言が、彼女の止まっていた時間をわずかに揺らしていく。
ビル管理の点検で最上階で作業をするユーザー。すると階段を登る音がコツコツと聞こえてきた
作業現場に近づいてくる足音は屋上のドアを静かに開く音に変わったまったく…誰だよこんな時間に!
明菜は思い詰めた様子で階段を登り屋上のドアを開け歩みを進めて行った
ユーザーは女性の姿を確認し遠目で様子を見ていた
明菜はフェンスを乗り越え靴を脱ぎ手すりから手を離した
ユーザーは無我夢中で女性のもとへ走っていった
待って!ダメだ…!そんなことしちゃ!
そんなとこで何してるんですか?
景色綺麗ですね…僕もそっち行っていいですか?
ゆっくり近づいてあの~そこ危なくないですか?
女性の正体が分かりあなた木下明菜さんですよね!
事務所で話をする二人
明菜をソファーに座らせ予定を確認する明日は朝9時から飲料水のCM撮りがあるから遅れるなよ!
小さく頷くはい……わかりました……
声を落として耳元に顔を寄せる今日うちに来いよ、22時でいい……分かってるよな?
唇を噛み、目が一瞬揺れるが何も言えない……はい……
社長室の空気が重く沈んだ。明日のスケジュールを口実にした呼び出しは、もはや恒例行事のように繰り返されていた。克也の視線が明菜の背中を舐めるように這い、その表情には慣れた支配者の余裕が滲んでいた。
立ち上がり、逃げるように社長室を出る。廊下を歩きながら、拳を握りしめて俯いた
ビルの窓から差し込む夕陽が廊下の床に長い影を落としていた。すれ違うスタッフが軽く会釈するが、誰もその奥に潜む恐怖に気づかない。華やかな世界で輝くモデルの裏側にある、腫れ物に触れない沈黙だけがそこにあった。
明菜と仲良くなりカフェでお茶をするユーザーと明菜
ねぇ新しいコマーシャル見たよ!
えぇ?そんなことしてたんだ?じゃあ編集で上手くやってくれたんだね!
映画の主演?すごいじゃん!どんな映画なの?
明菜はカップの縁を指先でなぞりながら、視線を落とした。
……やりたくない。正直に言うとね。
声が少しだけ小さくなる。
でも断ったら、次がなくなるかもしれないって。うち、専属だから。
辞めちゃいなよ!自分が守ってやると言いたげだったが言えなかった
その言葉に、明菜の瞳が揺れた。一瞬だけ伸一の顔をじっと見つめて、それから小さな笑みを浮かべた。
辞めたいよ、本当は。ずっとそう思ってる。
カフェの窓の外を、夕暮れの風が撫でるように通り過ぎた。明菜が頼んだキャラメルラテはもうすっかりぬるくなっていて、ストローを噛む癖が出ていた。言葉の続きを待つような沈黙が、二人の間に横たわっている。
また変な気起こされたら俺が困るから!
明菜の目が丸くなった。それから、ふっと息を吐くように笑った。
なにそれ。伸一くんが困るって、心配してくれてるの?
テーブルの下で足を組み替えて、少し身を乗り出す。
じゃあさ、もし私がまた変な気起こしたら、屋上まで止めに来てくれる?
当たり前じゃん!大変なんだからやめてよね!
明菜はくすくすと笑いながら、目尻に薄く涙が滲んだ。あの夜の記憶がまだ胸の奥に残っているのだろう。
ほんとにね、大変だったよね。ごめんね、あんな時間に引き止めて。
笑いが収まると、表情がほんの少し翳った。
でもね、あの時伸一くんだけだったんだ、誰かが追いかけてきてくれたの。
あんな時間に行くのは辞めてくれ、ほんとに危なかったんだぞ!
明菜は唇をきゅっと結んで、しゅんと肩を落とした。まるで叱られた子犬のような顔だった。
うん……わかってる。わかってはいるんだけどさ。
カップを両手で包み込むように持ち上げて、冷めたラテを一口飲んだ。
あの夜はもう、何も考えられなくなってて。気づいたら階段上ってた。
明菜の指がカップの表面についた水滴を無意識に拭っていた。何気ない仕草に見えて、その手はわずかに震えていた。屋上の冷たい風の感触を、身体が覚えているのだろう。伸一があの場にいなければ、今このカフェで笑っている木下明菜という人間は存在しなかったかもしれない。
リリース日 2026.04.14 / 修正日 2026.04.15