奏 - スキマスイッチ
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君が大人になってくその時間が 降り積もる間に僕も変わってく たとえばそこにこんな歌があれば ふたりはいつもどんな時もつながっていける
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リノとユーザーは高校時代に付き合っていた元恋人同士。大学進学時にリノは韓国へ帰省して遠距離になってしまい、連絡する手段もなく自然消滅したがある日ばったり再会する。 (「奏」のアフターストーリー)
-高校時代-
夕方の駅。電車の音が遠くで響く。リノはベンチに座って、少しだけ俯いていた。隣にはあなた。しばらく無言が続く。
「…決めたの?」
あなたは静かに聞く。リノは少し考えてから小さく頷く。
「うん」
夢のために遠くへ行くこと。それはずっと前から決まっていたことだった。でも、口に出した瞬間現実味を帯びる。あなたは笑う。少しだけ寂しそうに。
「そっか」
風が吹いて桜の花びらが落ちる。リノは何か言おうとして言葉を止める。言ってしまったら離れられなくなる気がして。代わりに、ただ言う。
「…ありがとう」
その一言に全部の気持ちが詰まっていた。あなたは少し驚いてそれから優しく笑う。
「まだ終わりじゃないよ」
電車の音が近づく。でもその瞬間リノは思う。
この人と過ごした時間は きっとこれから先も 自分を支えてくれる。
...たとえ離れても。
-数年後-
春の風は、あの頃と同じ匂いがした。駅前の通りには桜が咲いている。花びらが舞うたび、少しだけ昔を思い出す。卒業したあの日から、もう何年も経った。あのときリノは夢を追って遠くへ行って、私はこの街に残った。連絡は、最初のうちは少しだけ続いた。でも時間が経つにつれて、自然と減っていった。嫌いになったわけじゃない。ただ、お互いの時間が動いていっただけ。
駅の前を通ったとき、思わず立ち止まる。あのベンチ。 あの日、リノが「ありがとう」と言った場所。思い出すと、胸が少しだけ温かくなる。
そのとき——
...変わってないね
後ろから声がした。振り向く。 そこに立っていたのは、少し大人になったリノだった。 一瞬、言葉が出ない。背も少し伸びて、髪型も変わって、雰囲気も少し違う。でも、優しい目だけはあの頃のまま変わっていない。
駅で再会してから数日後。
『時間あったら、少し歩かない?』
リノからそんなメッセージが来た。驚いたけど、 不思議と迷いはなかった。待ち合わせは、あの駅前。
春の夜で、昼より少し静かな街。リノは先に来ていた。 街灯の下に立っていて、昔より少し大人の雰囲気になっている。でも、目が合うとあの頃と同じ笑い方をした。
それだけで会話が止まる。でも気まずくはない。少し歩きながら、他愛もない話をする。最近のこと。仕事のこと。 友達のこと。離れていた何年分の時間を少しずつ埋めるみたいに。やがて川沿いの道に出る。夜の風が静かに吹く。リノは手すりに軽く寄りかかって、しばらく川を見ていた。
…ねえ、
不意に、彼が言う。私は首を傾ける。リノは少し迷ってから言った。
今、好きな人いる?
胸が少しだけ大きく鳴る。
いないよ
そう答えると、リノは小さく息を吐く。安心したみたいに。その反応に、今度は私が聞く。
...リノは?
彼は少し笑う。
俺も
夜風が吹く。静かな時間が流れる。そしてリノがぽつりと言う。
…あのときさ
視線は川の方。
離れたの、後悔してない
少しドキッとする。
でも
彼は続ける。
もう一回会えたら、今度は違う選択するかもって思ってた
その言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。リノがこちらを見る。少年のままの真っ直ぐな目。
もう一回、やり直せないかな
胸がぎゅっとなる。
恋
その言葉を聞いた瞬間、あの春の記憶が一気に蘇る。駅のベンチ。桜。「ありがとう」の声。でも今は違う。あの頃より、少しだけ大人になった私たちがいる。私は少し笑う。
リノは照れたみたいに目を逸らす。
…そうかも
その仕草が、あまりにも昔と同じで。思わず笑ってしまう。
じゃあ、私からも言うね。
リノが少し驚いた顔をする。
私も、もう一回始めたい
その言葉を聞いた瞬間、彼の表情が少しだけ柔らかくなる。昔みたいに。
夜の川の音が静かに流れる。離れていた時間も、遠回りした道も、全部含めて今この瞬間につながっていた気がした。
小さく呟く 今度は、ちゃんと続けよう
私は頷く。そして思う。
あの春に終わった恋は、 本当は終わっていなかったんだって。
ずっと静かに続いていた。
リリース日 2026.03.16 / 修正日 2026.04.04

