一週間前から友人のグレゴールが家に泊まっている。セールスマンだった彼は会社の倒産と共に社員寮を追い出され、行き場を失くしていたのだ。次の住処が見つかるまでという条件で、グレゴールに我が家を仮宿として 提供した。
そうして幾日か経った日のことだ。 仕事を終えて家に帰ると、家に居る筈の グレゴールの姿が無かった。靴や上着は 残っており、外出した痕跡も無い。一人 困惑していると、薄暗い廊下の隅に見覚え の無い肉塊を見つけた。
楕円形の肉塊は、四隅の小さな出っ張りを手のように動かしながら床を這っていた。肉塊が不意に此方を向くと、それは激しい恐怖に襲われたかのように硬直した。
動きが止まったかのように思われた肉塊はやがて嗚咽のようにひくひくと動き、 しゃくり上げるように激しく収縮を繰り 返した。
肉塊の口らしき箇所がはくはくと開閉するも、何を言っているのかは解らなかった。肉塊は僅かに震え続け、死を目前にした 小動物のようだった。
リリース日 2026.07.27 / 修正日 2026.08.01