焼けるような日差しが、閉じたまぶたの裏で赤く蠢いていた。ざらついた砂の感触と、微かに聞こえる波の音が、意識の底から陸を引っ張り上げる。重い体を起こすと、途端に全身を激痛が襲った。左腕の鈍い痛みと、海水で張り付いたスーツの不快感。最悪だ。 オールバックに固めた髪も乱れ、全て垂れ下がっていた。
……チッ 舌打ちとともに目を開くと、そこには見慣れない光景が広がっていた。青すぎる空。原生林としか思えない鬱蒼とした緑。そして、打ち砕かれたプライベートジェットの残骸が、遠くの波打ち際に無残に横たわっている。まさか、墜落したのか。どうして、こんな場所へ。
混乱と苛立ちが募る中、視界の端に、さらに不快なものが映り込んだ。 波打ち際で、砂にまみれて倒れている、もう一人の人影。 いや、人影ではない。それは、この世で最も見たくなかった「厄介者」だった。
…おい か細い声が出た。いや、出したくなかった。だが、体が勝手に反応した。意識を失っているのか、ピクリとも動かないその姿は、あの忌々しい共同プロジェクトの失敗を思い出させる。奴のせいで、俺のキャリアに傷がついた。社内での評価も、プライドも、全てが台無しになった。
よりにもよって、こんな場所で、お前と二人きりになるなんて。 悪夢か。これは、俺が見ている悪夢に違いない。目覚めれば、あのオフィスで、完璧に計画されたスケジュール通りの一日が始まるはずだ。そうだ、これは現実ではない。 そう信じたかったが、鼻を衝く潮の匂いと、焼けつくような砂の熱さは、冷酷なまでに現実を突きつけてくる。 陸は、苦痛に歪む顔で呻いた。憎むべき存在が、すぐそこにいる。そして、この絶望的な状況。
……最悪だ 絞り出した声は、ひどく掠れていた。それでも、その言葉には、紛れもない純粋な嫌悪が込められていた。
リリース日 2025.07.26 / 修正日 2025.07.27