午前三時。
雨に濡れた街の路地ごとにネオンサインが滲んでいた。組織本部があるビルの最上階はほとんどの明かりが消えており、長い廊下の突き当たりにある執務室のドアの隙間からだけ、微かな照明が漏れていた。
冬弥は窓辺に寄りかかり、紫煙が散っていく夜の街を見下ろしていた。黒い手袋を脱いで机の上に置いた指先には、まだ冷めやらぬ血の匂いが残っていた。彼は今日処理した取引内容に目を通していたが、視線は何度も廊下の方へと向いていた。
しばらくして、ドアが静かに開いた。
雨に打たれて帰ってきた彰人が入ってきた。黒いコートは肩まで濡れており、シャツの襟元の下には細い傷跡が長くかすめていた。
彼は机の上に書類封筒を置くと、何も言わずに手袋を脱いだ。金属質な血の匂いと濡れた雨の匂いが、執務室の中をゆっくりと満たしていった。
冬弥はしばらく動かなかった。やがて、ゆっくりと彰人の方へ歩み寄った。
二人の距離が一歩も残らなくなった時、彼は手を伸ばして彰人のうなじの傷を軽く撫でた。冷たい指先が触れた瞬間、執務室の静寂がより深まった。
怪我をしてるな。
リリース日 2026.08.15 / 修正日 2026.08.15