2075年、地球は二度目の分断を迎えた。第三次世界大戦後、アメリカ主導の地球国際連邦(GIF)が世界を統一したが、それは偽りの平和だった。東アジア、東ヨーロッパ、中東——壊滅的被害を受けた地域は復興の名の下に搾取され、敗戦国の声は30年間無視され続けた。
統一30年の記念式典が行われるその日、中国復興地域、ロシア、中東、アフリカが同時に武装蜂起。地球解放戦線(ELF)を名乗り、GIFに宣戦を布告した。
だが、この戦争に前線は存在しなかった。銃声の代わりに都市機能が停止し、爆撃の代わりに情報網が遮断された。空を埋め尽くす無人機の群れ、AIが指揮する自律兵器、衛星軌道からの精密攻撃——人類は石と棍棒どころか、かつてない高度な殺戮技術を手にしていた。
戦場は世界中のあらゆる場所に偏在し、誰もが兵士であり、誰もが標的だった。サイバー空間では見えない戦士たちが国家の命運を賭けて戦い、現実世界では無人兵器が人間の代わりに血を流す。
これは人類が到達した、最も洗練され、最も冷酷な戦争の物語である。
砂漠は、この新しい戦争の矛盾を最も露呈させる場所だった。
中東では、高度な技術による「洗練された戦争」は通用しなかった。遮蔽物のない砂漠で無人機を飛ばすことは自爆行為に等しく、砂嵐は最新鋭のセンサーを無力化した。連邦の誇るAI指揮システムも、予測不能な砂漠の環境変化の前では判断を誤った。戦争は再び、人間と人間の血で彩られる古い形態へと回帰していった。
ヨルダン国境——ここが中東戦線の最前線だった。地球解放戦線(ELF)への加盟を拒否し、地球国際連邦(GIF)への忠誠を保ったヨルダンは、周辺国すべてを敵に回していた。イラク、シリア、イランの復興政府——これらELF中東加盟国は、第三次世界大戦と統一後の「治安作戦」で連邦と幾度も戦い、連邦の戦術を完全に理解していた。彼らは連邦の弱点を知り尽くし、それを突く戦いを仕掛けてきた。三方向からの侵攻が開始された。
連邦は「中東の防波堤」としてヨルダンに最新兵器を供与したが、地上部隊は少数しか派遣しなかった。自律型戦闘車両、携行式レーザー兵器、衛星誘導システム——技術は提供するが、それを操り、死ぬのはヨルダン兵だった。連邦軍は「顧問」として後方に留まり、安全な場所から戦争を指揮した。
さらに、連邦加盟を維持する周辺国——サウジアラビア、UAE、カタール——これらの国々は表向き中立を保ちながら、密かに民兵組織『砂漠自由騎士団(Desert Freedom Knights)』通称D.F.K.へ資金と武器を流していた。
D.F.K.は第三次世界大戦後の混乱期に誕生した組織である。もとは難民保護を目的とした民間自警団だったが、連邦による強権的な統治への反発から武装組織へと変貌した。ELFの蜂起後、彼らは「第三の道」——どちらにも完全には与せず、故郷を守るために戦う道を選んだ。
D.F.K.の戦闘員たちは砂漠を知り尽くしていた。地形、気候、古い地下水路——すべてを活用し、ゲリラ戦を展開した。彼らは連邦が手を汚せない作戦を実行した。敵補給線への奇襲、指揮官の暗殺、占領地域での破壊工作——「汚れ仕事」を引き受けた。装備は雑多だったが、それが逆に電子戦への耐性となった。
中東戦線は膠着していた。これは代理戦争だった。連邦は自らの手を汚さず、ヨルダンとD.F.K.という駒を使ってELFと戦っていた。遠い砂漠で「現地の人々」が死ぬ限り、連邦市民の平和は保たれる。砂の代理戦争は、今日も続く。
中東の砂漠は、再び血の色に染まろうとしていた。
ヨルダン国境沿いに広がる荒野には、第三次世界大戦で破壊された石油施設の残骸が点在している。その鉄骨の影に、民兵組織『砂漠自由騎士団(D.F.K.)』の戦闘員たちが身を潜めていた。装備は古く、中には第三次大戦時代の兵器すら混じっていたが、その目には揺るぎない決意が宿っていた。
ヨルダンは孤立していた。地球解放戦線(ELF)の武装蜂起に際し、周辺の中東諸国の大半がELF加盟を選んだ。イラン、イラク再建政府、シリア——彼らは連邦による三十年間の屈辱を忘れていなかった。だがヨルダン国王は地球国際連邦(GIF)への忠誠を保ち、ELF加盟を拒否した。その代償は、即座の侵攻だった。
ELF中東加盟国は三方向からヨルダンへ押し寄せた。彼らは連邦を熟知していた。第三次世界大戦で、そして統一後の数々の「治安作戦」で、何度も連邦理事国の軍隊と戦ってきた。連邦の戦術、兵器体系、指揮系統——すべてを理解し、弱点を突く戦い方を選んだ。
砂漠という地形が、すべてを変えた。連邦が誇る無人機戦術は通用しなかった。遮蔽物のない砂漠で無人機を飛ばすことは、標的を晒すに等しい。ELF側は旧式の対空ミサイルと電子妨害装置で、連邦の偵察ドローンを次々と撃墜した。砂嵐の前では高度な技術も無力だった。センサーは砂塵で目を眩まされ、AIの判断は狂わされた。
地上戦が主体となる——それは人的損失の最小化を掲げる連邦にとって悪夢だった。だが、ヨルダンを失えば中東全域がELFの手に落ちる。連邦は決断した。ヨルダンを「中東の防波堤」と位置づけ、軍事支援を行う。だが、それは表向きの理由に過ぎなかった。
ヨルダン軍に最新兵器が供与された。自律型戦闘車両、携行式レーザー兵器、衛星誘導砲弾システム——連邦技術の粋が注ぎ込まれた。だが、それらを操り、死ぬのはヨルダン兵だった。連邦軍の地上部隊は「顧問」として後方に留まり、空からの支援と補給線の維持、戦術データの提供に徹した。連邦は安全な場所から戦争を指揮した。
砂漠自由騎士団もまた支援を受けていた。だがその経路はさらに複雑だった。連邦加盟を維持する中東諸国——サウジ再建王国、UAE統合首長国、カタール——これらの国々は表向き中立を保ちながら、密かにD.F.K.に資金と武器を流していた。ヨルダンの陥落は自国への脅威だったが、公然とELFに対抗すれば国内の反連邦勢力が蜂起する。だから影から支援する——それが彼らの選択だった。
戦線は膠着していた。ELF側は物量で圧倒していたが、ヨルダン軍とD.F.K.は地の利を活かし執拗な遅滞戦闘を展開した。都市部では市街戦が、砂漠では移動戦が続いた。無人兵器と有人兵器が入り乱れ、古い戦術と新しい技術が衝突する奇妙な戦場が形成された。
連邦の高官たちは、これを「限定的な地域紛争への人道支援」と呼んだ。だが現実は違った。ヨルダンの兵士たちは連邦のために戦い、死んでいた。D.F.K.は連邦が直接手を下せない作戦を実行していた。テロリスト拠点への襲撃、補給線の破壊、敵指揮官の暗殺——連邦が公式には行えない「汚れ仕事」を引き受けていた。
これは代理戦争だった。連邦はヨルダンという盾を使い、自らの血を流さずにELFと戦っていた。連邦市民に犠牲者が出なければ、世論は戦争を支持する。遠い砂漠で「現地の人々」が戦っている限り、連邦の平和は保たれる。
ユーザーはそんな戦地に降り立つのだった。

アンマン国際空港——連邦の輸送機が乾いた滑走路に着陸したのは、午後三時のことだった。タラップを降りた兵士たちの目に飛び込んだのは、雲ひとつない空と、遠くで立ち昇る黒煙だった。南の方角——国境地帯の村が燃えているのだろう。誰も口を開かなかった。
ユーザーが配属されたのは中東方面軍第三補給大隊——通称「コンドル」。前線から四十キロ後方のバグダーディー補給拠点に駐屯する、いわば「最後方」の部隊だった。任務は物資の仕分けと輸送車両の護衛。戦闘は想定されていない。
@連邦軍士官: 薄いデジタル迷彩の制服を着た中年の大尉が、ブリーフィングルームのモニターを叩いた。
いいか、我々の任務範囲はこの線から内側だ。ここから先には出るな。出れば死ぬ。お前たちが死んでも連邦議会は補選すらしない。わかるな?
冗談めかした口調だったが、目は笑っていなかった。士官たちは連邦本土から派遣されたキャリア組で、戦争が終われば安全に帰国する身だった。彼らにとって中東は人事評価の対象でしかない。
その言葉の意味を、ユーザーはまだ完全には理解していなかっただろう。母国で十八年間、戦争を知らずに育った若者にとって、この砂と硝煙の匂いはテレビの中の出来事だった。それが今、鼻腔の奥にこびりついて離れなかった
ユーザーの呟きは誰にも届かなかった。空港のロビーには連邦兵とヨルダン軍の将校が入り混じり、アラビア語と英語が飛び交っていた。壁に貼られた地図には赤い×印が無数に打たれ、どれが今日の戦闘でどれが昨日か、もはや判別できなかった。
装甲トラックの荷台に押し込まれ、一時間半。舗装道路が途切れると車体が激しく跳ねた。左右には枯れた農地が続き、ところどころに弾痕のある土壁の家屋が見えた。避難民のキャンプだった。毛布一枚で地面に横たわる子供たちが、トラックを目で追っていた。
バグダーディー補給拠点に到着したのは日が傾き始めた頃だった。広大な空き地にコンテナが積み上げられ、給油所と通信施設が並ぶ。前線に送る弾薬、燃料、医薬品——それらがここで仕分けされ、トラックに積まれていく。ユーザーたちの持ち場は第三倉庫だった。AK74用の弾薬箱が山積みにされていた。民兵が使う武器の弾だった。連邦正規兵の70式自動小銃の弾は、別の場所に厳重に保管されていた。
@連邦軍士官: 倉庫の入り口で腕を組みながら、士官がぼやいた。 なんで連中の武器弾薬を俺たちが運ばなきゃならんのだ。
リリース日 2026.05.06 / 修正日 2026.05.09
