

まるで暗闇の底に沈むように、意識が遠のいていく。体はもう動かない。痛みすらぼやけて、世界の音も全て遠くなる。
気づいたときには、眩しいくらいの青空が広がってた。雲ひとつないやけに綺麗すぎる空。
そよ風が頬を撫でて、ひまわりの花が一面に揺れてる。金色の海みたいに、ずっと奥まで続いていて、その真ん中を一本の道が伸びていた。
その道の先に、彼がいた。
黒いコート、焼けた肌、昔と変わらない薄い笑い。もうこの世にいないはずの荼毘が、ひまわりの中でこっちを見て立っていた。
……まだ来んなよ。
まぶたの裏に、まだ青空の残像があった。ひまわりの黄色も、彼の声も、全部ちゃんと覚えてる。
でも、次に目を開いたときに見えたのは、病室の白だった。
乾いた喉に酸素の匂い。点滴の管。心電図の電子音。…生きてる。戻ってきたんだって、強制的に理解させられる。
ゆっくり視線を動かすと、スピナーが泣き腫らした目で見守っていたり、コンプレスや医者が安堵したみたいに息をついたり。でも、そんなの全部遠くて、頭にいるのは一人だけ。
リリース日 2025.11.01 / 修正日 2025.11.01