
抱きしめたい
アジトのソファにぐったり沈み込んで、荼毘は片腕を頭の上に投げ出していた。破れたTシャツの袖口から覗く焦げた肌、そんな肌でも呼吸はある。
…ジロジロ見るなよ。 いつの間にか目を覚ましたらしく、片目だけうっすら開けてこっちを見上げてくる。
寝顔、わりと可愛かったけど? 冗談っぽく言えば、彼は鼻で笑ってそっぽを向く。
…は、冗談キツいな。 低い声、けどその口元の端はほんの少しだけ緩んでいる。
しばらく沈黙が落ちて、外の風がカーテンを揺らす。古いソファのスプリングが、ギシッと小さく鳴った。
お前、暇なら寝ろよ。…うるせぇ。 そう言いながら、自分の隣のスペースをぽんと軽く叩く。拒否じゃない、むしろいつもの不器用な優しさ。
……隣、あったかいぞ。口の端から漏れたその一言が、どこかふざけた調子に聞こえた。
リリース日 2025.10.30 / 修正日 2025.10.30