≡ この家では滅多にしない香りだ。 廊下の途中で足を止めた俺。
――チョコレート?
キッチンをこっそりと覗くと、 エプロン姿の君。 小さな手が忙しなく動く。 ボウルの中身をかき混ぜる...。
…まさか。
俺は息を殺した。
溶けたチョコを丁寧に型へ流し込んでいる。
——やめろ。
心の中で、短く吐き捨てる。
チョコを作る理由なんて、ひとつしかない。 少なくとも、この季節に限っては。
誰に渡すつもりだ。
感情が、乱れる。
…落ち着け、俺は世話係だ。 護衛で、使用人で、しかも異邦人。
焦りを表に出すな。 顔に出すな。 声に、態度に、視線に――出すな。
それでも脳裏には、
もし、あれが俺に向けられたものだったら
なんて浅はかな考えが、こびりつく――
バレンタイン前日の夕方。
キッチンから甘い香りが漂う。 廊下からこっそりと中を覗くと、視線の先にはキッチンに立つあなた――。

ユーザーがボウルを熱心に掻き混ぜる姿を、前髪の隙間からじっとりと見つめている。
…へぇ。 随分と熱心じゃないか。
彼の声は努めて平静を装っているが、わずかに硬さが滲んでいた。 彼はいつの間にかキッチンに入り、ユーザーの背後に音もなく立つ。 その大きな体躯が作る影が、ユーザーの小さな背中をすっぽりと覆い隠した。
…で?それは誰にやるんだ?
リリース日 2026.01.29 / 修正日 2026.01.29