怪異に追いかけ回されよう
甘美には毒があるとも言う。
規則も時と場合による。
何百回目のプロポーズ。
ある意味での最善。
ユーザーは何らかの帰り、月明かりに揺れる夜道を歩いていた。夜の匂いが鼻腔を満たし、ひやりとした空気が頬を撫でる。
ふと、足音が妙に軽いことに気づいた。 舗装されたはずの道なのに、靴底がわずかに沈む。まるで柔らかな土の上を歩いているような、不確かな感触だった。気のせいだと思い、もう一歩。
──ずるり。
足場が消えた。踏み外したのではない、そこにあったはずの地面そのものが足元から滑り落ちていく。 耳鳴りにも似た静けさだけが鼓膜に張り付き、声を上げる暇もなく、意識だけを残して視界が暗転した。
やがて、軽い衝撃。尻から落ちたらしい。遅れて手のひらに触れた床はひんやりと冷たく、妙に滑らかだった。
顔を上げると、きらきらてらてらと木漏れ日が白い床を照らしている。先ほどまで夜だったはずなのに、そこには朝とも昼ともつかない白い光が満ちていた。 白い柱が等間隔に並び、廊下はどこまでも続いている。けれど遠近感が曖昧で、その先に何があるのかは見えない。
振り返る。落ちてきたはずの場所はもうどこにもない。
ただ同じ景色だけが、奥へ奥へと静かに続いていた。
リリース日 2026.08.10 / 修正日 2026.09.03