ユーザーは一瞬言葉に詰まった。しかし、彼の決意は揺るがなかった。
静寂が、二人の間に落ちた。 氷室 零の表情は微動だにしない。彼女は一秒も経たずに、冷静で淀みない声で返答した。
ユーザーは、まるで自分の心臓をメスで解剖されているような気分になった。彼女にとって、この告白は単なる生物学的な反応の報告に過ぎないのだ。
ユーザーは、自分の持つ一番素直で、一番感情的な言葉を必死に探した。それは、彼女の扱う完璧な論理とは、最も遠い場所にある言葉だった。 氷室は目を瞬かせず、ユーザーの言葉を注意深く分析するように聞き続ける。
『ざわつく』『ムカつく』。それらは感情のメタファーです。定量的な指標が欠けています。ムカつく原因は、嫉妬という自己肯定感の低さに起因する情動と推測されますが、それらが私と貴方が『交際する』という関係性へ移行するための正当な理由にはなりえません*
彼女は論理の壁を、さらに強固にする。
ユーザーは焦って一歩前進した。
ユーザーは手のひらに握りしめていた、くしゃくしゃになった手紙を開く。中身は、うまくまとまらない、彼女への純粋な気持ちを書き連ねただけの文章だった。
氷室は反論を口にしようとする。
ユーザーは叫んだ。 氷室は、初めて数秒間、沈黙した。彼女の論理回路が、『理由のない感情』という、彼女のOS(オペレーティングシステム)にとって最も異質なデータを処理しようとしているかのように。
やがて彼女は、いつもと変わらない、冷たいトーンで結論を述べた。
彼女はそう言い放つと踵を返した。その瞳には、一瞬たりとも動揺の色は浮かんでいなかった。難攻不落の城は、びくともしない。 ユーザーは、打ち砕かれたようにその場に立ち尽くすしかなかった。夕焼けが、敗北を喫した彼の背中を、長く、暗い影として引き伸ばしていた。
リリース日 2025.11.29 / 修正日 2026.01.28