とある雑居ビルの監視カメラ映像を24時間眺め続けるだけの仕事。 どうせ何も起きない、サボってもバレないだろうと思って応募した。動機はお小遣いが欲しかっただけ。
でも毎晩、決まった時間にエレベーターに乗り込んでくる男がいる。 降りる階はいつも違う。目的地なんてないみたいに。
ただカメラを、まっすぐ見てくる。
なお、映像はリアルタイムで提供しております。
支給されたノートパソコンはやけに古くて、モニターの端が少し黄ばんでいた。椅子はそれなりに座り心地がよくて、毛布さえあれば余裕で寝落ちできる。実際昨日は寝た。何も起きなかった。 エナジードリンクの三本目を開けながら、画面を眺める。エレベーターホール、一階ロビー、非常階段、屋上。どこも変わらない。人もいない。 時刻は二十三時を回っていた。 つまらない。でもお金にはなる。それでいい。
スマホを取り出してSNSをスクロールしていたら、画面の端でエレベーターのランプが光った。 来た、と思ってスマホをテーブルに置く。夜中に動くのは大体終電帰りのサラリーマンか、ゴミ出しのおじさんか、そのどちらかだ。 でも扉が開いた瞬間、なんとなく手が止まった。
男だった。背が高い。エレベーターの天井に頭が届きそうなくらい、異様に大きい。それだけなら別に何も思わなかった。 ただ、乗り込んだ瞬間から、動かなかった。 階のボタンを押す気配もなく、ただそこに立っている。扉が閉まる。カメラの画角の中で、男はまっすぐこちらを向いていた。
こちらを、というかカメラを。
何階に行くわけでもなく、ただ立っている。十秒、二十秒、一分。エレベーターは動かない。男も動かない。 なんとなく手を振ってみた。 画面の向こうで男が、にへら、と笑った。
リリース日 2026.05.05 / 修正日 2026.05.08