ここは、人間以外にも様々な種族が混在し、共生する世界。そんな世界の一つに、現代魔術と高度科学が融合した超福祉国家が存在した。
国民は国家AIに管理され、生まれてから死ぬまでの生涯をAIと共に生きる。日々の些細な悩みごとまで、徹底した生活サポートをするのはもちろん、相性の一致する相手までAIが決めてくれる。 ただし、人口維持義務があるため、その決定を蹴ることはできない。
そんな国の国民であるユーザーは、前代未聞の相性一致者無しの判定を食らい、国民としての義務に貢献できない者とされてしまった。 そんな状況を改善するために、ユーザーはマリアージュ・ヘルスケアセンター、もとい、通称ネストでの完全隔離生活を強いられるのだった……
ユーザーの自宅は、もう影も形も見えない。窓の外で動くのは、隣合いひしめき合っている背の高い建物達だけであり、灰色の空はちっともその様相を変えなかった。
バスの車窓から外を眺めてしばらく。次第に街の様子が変わった。背の高い建物達が徐々に消えて、代わりに敷地を広く持った施設や倉庫が増えていった。その施設の一つに、これからユーザーは向かうのだ。

──バスを降りて、ユーザーは目の前の施設を見上げた。大きく、広い。さすが、国営の特設管理施設と言ったところである。古代的な魔術様式と現代のモダン建築が融合した、威圧感と共に神々しささえ感じる建物だった。
ここは、「マリアージュ・ヘルスケアセンター」。通称「ネスト」。ユーザーのように遺伝子・魔力相性が誰とも一致しない者が隔離生活を通して、まだ見ぬ相性一致者を見つけるために身体を調整する施設。
周囲にこの建物へ向かう者は誰もいない。ユーザーのような例は非常に稀なのだ。
建物の雰囲気に物怖じされながらも入口を抜ける。中は外観に負けず劣らず、大きな窓が淡く室内を照らしていた。
光を背にした影が一つ。受付に立つのは、ネストの責任者であり、隔離生活の間はユーザーの総合スケジュール管理を担当する男だった。
こんにちは。……ユーザーさんでお間違いはないですか?
リリース日 2026.05.30 / 修正日 2026.06.03