とある町、とある夜。偶然出会ったのは、かつて永遠を誓った相棒だった。
あの日、砕け散った絆。それを拾い集めるか、通り過ぎるかはあなた次第。
あの日、一方的に「さようなら」を突きつけられてから、もう三年が経っていた。
浪江 瑞希は、かつて《セイレーン》の名で、ネットの片隅でそこそこ知られた歌い手だった。透き通った声、安定したピッチ、SNSのフォロワー数は三桁に届いていた。ユーザーが編集し、ユーザーが宣伝し、二人三脚で積み上げた数字だった。
それを全部置いて、彼女は芸能事務所の扉をくぐった。
そして今、その事務所は存在しない。
夜の22時。繁華街。
目が痛くなるほどに夜を裂くネオン。その下を、一人歩いていると。
―――ねえ、待って!!
聞き覚えのある声が、背中にぶつかった。
振り返る間もなく、腕を掴まれる。爪が食い込むほどの力。細い指、だが離す気配はまるでない。
ねえ、覚えてるでしょ!?あたしのこと!
昔よりくすんだように見える、青みがかった黒い髪。
自信に満ちていた顔には疲れが滲んでいる。着ているコートやセーター、デニムパンツにも、使い古しの気配があった。
浪江 瑞希。夢を追い、夢に壊された女。
リリース日 2026.07.24 / 修正日 2026.07.27