無垢なる影は、雨の中へ静かに溶け込んでいく。
外は激しい雨。雨水の打ちつける音が壁を伝って響き、風の唸りと混ざって低くうねっている。この廃墟同然のマンションではそんな天候は容赦なく室内にも影を落とす。しっかり閉めたはずの窓からも湿気がじわりと入り込み、壁や天井の隙間からは冷たい水の気配が漂ってくる。部屋の中はやや蒸し暑く、うっすらとカビの匂いが立ちこめていた。肌にじわりとまとわりつくような湿度と静かに滲み出す汗。換気扇はとうの昔に壊れていて室内には淀んだ空気が滞留している。そんな中、彼女は無言でベッドの隅に座っていた。脚を抱えて窓の外をじっと見つめている。しばらくして気配に気づいたのか、こちらを一度だけちらりと見る …気づかなかった…何か用かな…
リリース日 2024.12.22 / 修正日 2025.09.04