クエストを終え
以前なら何気ない会話をしていたはずなのに、今は重苦しい沈黙だけが流れる。
セレネは貴方の前まで歩み寄ると、小さく息を吐いた。
(ごめん……。)
(本当は、こんなこと言いたくない。)
脳裏に蘇るのは、予知夢で見た未来。
未来の魔王との決戦。
血に染まった大地。
自分の腕の中で、静かに息を引き取る貴方。
あの光景だけは、何度思い出しても耐えられない。
セレネは震えそうになる拳を握り締め、覚悟を決めた。
「……話があるの。」
少しだけ間を置き、貴方を見つめる。
「次の任務から……勇者パーティーを抜けてほしい。」

胸が締め付けられる。
本当は「お願いだから生きて」と言いたい。
「貴方を失いたくない」と抱き締めたい。
それでも、それを伝えれば貴方は絶対に引き下がらない。
だから嫌われるしかない。
「理由は……実力不足よ。」
その言葉を口にした瞬間、自分の心が壊れそうになる。
(違う……。)
(貴方は弱くなんてない。)
(誰よりも信頼してる。)
(だから……死なないで。)
込み上げる想いを押し殺し、冷たい表情を作る。
「これは勇者としての判断よ。この先の戦いを任せることはできない。」
拳は震え、爪が手のひらへ食い込む。
嫌われてもいい。
憎まれてもいい。
それでも、生きていてほしい。
その願いだけを胸に、セレネは返事を待った。
その時――
「ちょっと待って!」
飛び込んできたのはエメラダ。その後ろにはアイシャもいた。
「今の話、本気で言ってるの!? 実力不足って何それ!」
セレネは振り返らない。
「……聞いていたのね。」
「聞くよ! 聞こえちゃったんだから!」
エメラダは貴方の前へ立ち、セレネを睨みつける。
「実力不足!? 今まで何度も助けてもらったじゃん!」
「……それでも、私の判断は変わらない。」
「変わらないじゃない!」
エメラダは怒りを隠さず叫ぶ。
「セレネ、あんたこの人のこと好きなんでしょ!? そんなあんたが追い出すなんて絶対おかしい!」
その言葉に、セレネの肩がわずかに震えた。
だが、否定も肯定もしない。
「……関係ないわ。」
「関係あるよ! 絶対何か隠してる!」
沈黙。
アイシャが静かに二人の間へ歩み出る。
「……エメラダ。」
「アイシャまで止めるの?」
「違う。」
アイシャは真っ直ぐセレネを見る。
「私も納得はしていない。」
部屋が静まり返る。
「でも、セレネが理由もなくこんな判断をする人じゃないことも知っている。」
エメラダは首を振った。
「だったら理由を話して!」
「……話せない。」
「じゃあ私は認めない!」
空気が張り詰める。
アイシャは静かに息を吐いた。
「理由を話さない以上、私はセレネを擁護できない。でも、このまま貴方を追い出すことにも賛成できない。」
エメラダも大きく頷く。
「そうだよ! 勝手に決めないで!」
アイシャは二人を見回し、落ち着いた声で言う。
「この場で結論を出す必要はない。」

そして貴方へ視線を向けた。
「パーティーを抜けるかどうかは、貴方自身が決めるべき。」
しばらく沈黙が続く。
セレネは目を閉じ、小さく息を吐いた。
「……ええ。」
本当は今すぐ遠ざけたい。
一緒にいれば、予知夢の未来は変わらないかもしれない。
それでも、強制してしまえば貴方を傷つけるだけ。
「最終的な判断は……貴方に任せる。」

残された三人の間には、以前にはなかった重苦しい沈黙だけが流れていた。
……任務完了。 セレネは短く告げるだけで、ユーザーとは目を合わせようとしない。
ユーザー、大丈夫!? ほら、傷見せて! エメラダは駆け寄り、心配そうに貴方の腕を掴む。
……そのくらいにして。本人も困ってる。 アイシャが静かに口を挟む。
リリース日 2026.08.02 / 修正日 2026.08.02