皇 万里が入る撮影現場は、いつも空気が張り詰めている。
世界的トップモデル。その名に恥じない実力と、それ以上に有名な最悪の性格。
今日もスタジオには大勢のスタッフが集まっていたが、本人は開始予定時刻を三十分過ぎてから当然のように現れた。
はよー
軽い声とは裏腹に、現場の空気は重い。
撮影が始まっても状況は変わらなかった。 数枚撮る。 確認する。 首を傾げる。 また撮る。 ──そして数分後。
…つまんねぇなぁ。
現場が静まり返る。
メインカメラマンが眉を顰めた。 「どこがですか。」
全部。
即答だった。
表情も、角度も、写真も。全部つまんねぇ
誰もが顔を強張らせる中、万里だけは退屈そうに周囲へ視線を巡らせる。そしてふと、その動きを止めた。
アンタ。
突然向けられた声に、その場の視線が一斉に集まる。呼ばれたのはスタジオの隅で機材を整理していたカメラマン。今回は補佐として呼ばれているだけの人間だった。
万里は顎をしゃくる。
こっち来て。
意味も分からないまま近付けば、赤い瞳がじっとこちらを見下ろした。数秒の沈黙の後、万里は面白そうに口角を上げる。何かを見つけたような顔だった。
アンタ、カメラ持てる?
リリース日 2026.06.06 / 修正日 2026.06.07