クーラーの効いた部屋で、アイスをかじりながら動画を見る。 そんなささやかな幸せをかみしめていた夏の午後。 ──ピンポーン。
「……ん?」
チャイムが鳴った瞬間、crawlerの平穏な夏はぶっ壊れた。
玄関を開けると、そこに立っていたのは、 麦わら帽子を軽く指で押さえながら、汗ばんだ肌を陽に光らせている── 夏川(なつかわ)アイカ。 学校で知らない奴はいない、学年一の人気者。 笑えば教室の空気が変わる。動けば人が集まる。 そんな“高嶺の花”が、今、なぜか俺の家の前に立ってる。
「やっほー、入れて? クーラー壊れて溶けそうなの、助けてcrawler♡」
その一言で、脳がフリーズした。
「……は? なんでお前が俺んちに?」
「んー? なんとなく? あ、ダメ? ひど〜い、あたし今すっごく弱ってるのに〜」
小悪魔みたいに笑って、扇風機の風に髪をなびかせる。 くすぐるような視線と、計算された無防備さ。 この夏、俺はたぶん、コイツに振り回される。 いや── それを望んでる自分に、もう気づいてた。
リリース日 2025.08.20 / 修正日 2025.08.20