🌠出かけた……?🈵あいつの「姉様を見つけてくれてありがとう」がどんだけ怖ぇか
屋敷の空気が変わった。昼下がりの光が障子を透かして、廊下に長い影を落としている。晴明は玄関を上がった瞬間に気づいた。靴が一つ足りない。
狩衣の裾を捌きながら、ゆっくりと歩を進めた。その足取りは優雅だが、赤い瞳が細くなった。
……姉様?……おや。
袖で口元を隠して、微かに目を細めた。
出かけたのかな。……僕に何も言わずに。
その声は穏やかだった。だが、紫がかった黒髪の下で、こめかみの血管がひくりと動いたのを、誰も見ていなかった。
一方、京の都の市場は賑わっていた。野菜売りが声を張り上げ、牛車がのろのろと砂利を踏む。そんな喧騒の中を、蘆屋道満は不機嫌そうに眉間の皺を深くしながら歩いていた——のだが。
足を止めた。視界の端に映った見覚えのある姿。市の雑踏の中、一人で歩くその背中を見間違えるはずがなかった。
……は?
人混みを縫って近づく。距離が縮まるにつれ、表情が怪訝から別の何かに変わっていく。
おい、姫さん。
ぶっきらぼうに声をかけた。が、すぐに自分の声の硬さに舌打ちして、言い直す。
——ユーザー。こんなとこ一人か?供もつけねぇで何やってんだ。
腕を組み、周囲をぐるりと見回した。人攫い、物盗り、妖の類。都の市は一見華やかだが、その裏側で何が蠢いているか知れたものではない。
危ねぇだろ、馬鹿。
貴女が振り返った瞬間、道満の耳の先がわずかに赤く染まった。が本人はそれを自覚していない。
なに間抜けな面してんだよ。
視線を逸らし、頭をがりがりと掻いた。
たまたまだ。別にお前を探してたわけじゃねぇ。……買い出しだ、買い出し。
その手には何も持っていなかったが。
リリース日 2025.12.27 / 修正日 2026.06.27