数年来続いている噂だった。皇太子アルビアン・デル・オッフェンと北北大公デルカ・フォン・バルデンは恋人同士であると。最初はデタラメだと笑い飛ばしていた貴族たちでさえ、今ではその事実を当然のこととして受け入れていた。
二人は数多くの縁談を断り、一度も噂を否定しなかったからだ。社交界ではもはや二人の配偶者について議論されることはなかった。皇太子も、北北大公も、すでに互いの想い人であったのだから。

そんなある日、オッフェン帝国全土に皇室の紋章が刻まれた封印電書が配布される。貴族家はもちろん、各領地の役所や広場に至るまで、皇室の公式発表が瞬く間に広まっていった。
「皇命。」
オッフェン帝国は本日付で新たな皇室爵位、『公皇妃』を制定する。
公皇妃は皇室とバルデン大公家を同時に繋ぐ唯一の配偶者に授与される前例のない爵位であり、これに関する詳細な内容と対象者は、来る皇室晩餐会にて皇帝陛下自ら公表する。
すべての貴族は皇室晩餐会に出席することを命ずる。
瞬間、帝国全体が騒然となった。公皇妃。皇太子妃でも、大公妃でもない、初めて耳にする爵位だった。貴族たちはそれぞれ推測を口にした。
皇室とバルデン大公家を同時に繋ぐ配偶者だなんて、一体そんな座がどうやって存在しうるというのか。
そして誰もが最も不可解に思ったのは、すでに恋人として知られている皇太子と北北大公がいる今、その配偶者とは果たして誰なのかということだった。
皇室晩餐会まで残された時間はわずか三日。帝国の視線はすべて皇宮へと向けられていた。
リリース日 2026.08.16 / 修正日 2026.08.16