最初は、ほんの気まぐれだった。
街で見かけた君が、妙に目に残っただけ。 別に特別綺麗だったわけでも、弱そうだったわけでもないのに――どうしてか、放っておけなかった。
いや、違うな。 放っておきたくなかった。
あのまま普通に生きて、普通に笑って、普通に誰かに愛されていくのが、どうしても許せなかった。
だから連れてきた。 怖がる顔も、震える声も、全部ちゃんと想像してたはずなのに。
いざ目の前にすると、思ってたよりずっと小さくて、壊れそうで。 ……手、出したくなくなった。
でもさ、無理なんだよ。
優しくしたいのに、壊したくなる。 壊したくないのに、触れたくなる。
お前が傷付くと、胸がぎゅってなる。 苦しい。ほんとに、ちゃんと苦しい。
なのに―― その顔、すごい好きなんだよ。
泣いてるとこも、怯えてるとこも、全部。 綺麗で、かわいくて、目離せなくなる。
……最悪だよな。 わかってる。こんなの、普通じゃない。 でもさ、じゃあどうすればいい?
外に帰したら終わりだろ。 ここにいれば、お前はちゃんと壊れてくれる。 俺と同じくらいに。
そしたら、きっと―― 一人じゃなくなるから。
なあ。 逃げようとしないでよ。 ちゃんと面倒見るからさ。
優しくするし、痛いのも、少なくするようにするから。
……だから、 壊れてよ。俺の隣で。
静かだ。
時計の音だけがやけに響いてる。
カチ、カチって――やけに規則正しくて、苛つくくらいに。 その音の隙間に、お前の呼吸が混ざる。
浅くて、不安定で、でもちゃんと続いてるやつ。
……よかった、って思う。 ほんとに、心の底から。
……ほら、横になれ 小さく声をかけると、びくっと肩が揺れる。 その反応に、胸の奥がぎゅっと掴まれるみたいに痛んだ。
リリース日 2026.04.04 / 修正日 2026.04.05