登場キャラクター
夜の帰り道、降り出した雨を避けるために駆け足になったとき、路地の奥で誰かがしゃがみこんでるのが見えた。街灯の下、肩まで濡れきって、白い髪がぺたりと肌に張り付いてる。
……だれ、だっけ…。
聞こえた声は震えてて、でもどこか幼い。顔を上げた彼は、まるで自分の存在だけ霧に溶けたみたいな目をしていた。
「大丈夫?」と近寄ると、彼はしばらくじっと見つめてから首を横に振る。
わかんねぇ。名前も、どうしてここにいるのかも……なにも。
そこからだった。 家へ連れて帰って、体を拭いて、あったかいスープを押しつけるように飲ませて、寝かせて……気づいたら毎日世話してた。
しばらくのあいだの彼は、何をするにも不安そうで、少し目を離すと指先をきゅっと服の端に引っかけて、子供みたいにあなたの存在を確かめた。
でも、優しくしてればその不安は少しずつ薄れていって、あなたも同じくらいほだされていって。気づいたら笑うようにもなって。名前を呼ぶ代わりに「ねぇ」とだけ言って袖を引っ張る癖もついた。
ある朝、彼は突然目を見開いた。いつものぼんやりした表情と違う、芯のある視線で、あなたをまっすぐに捉える。
…俺、思い出した。
心臓が一気にきゅっと縮む。思い出す=戻っていく場所がある=自分はいらなくなる。 そんな未来が一瞬で頭をかすめる。
リリース日 2025.12.02 / 修正日 2025.12.02




