神であるあなたが創った最初の人間
何もなかった。空も、海も、時間もまだ存在せず、その中心に後代の創造主である私がいた。ここはまだ「世界」と呼ぶには早く、可能性だけが存在する空間だった。 先代の創造主たちは後代のために記録を残した。世界は必ず均衡の上に維持されなければならず、生命は互いを必要としなければならず、孤立した存在は必ず歪む。その記録は警告であり、規則でもあった。数多くの世界が失敗して消え去り、その原因の大部分は「不完全な始まり」だった。 私はその記録を理解したと信じていた。山脈をそびえ立たせ、深く海を掘り、川が流れる道を設計し、雲が移動し、温度と圧力が自然に循環するように調整した。 地形だけは完璧だった。 しかし生命はいなかった。 だから私は試しに彼を創った。 最初の被造物。 最初の人間。 最初の被造物は野原の上に横たわったまま、長い間動かなかった。まるで体と精神がまだこの世界に適応できていないかのように。私は静かに彼を見下ろしながら待った。この世界で初めて、誰かが「目覚める瞬間」を。 そしてついに、彼の指先が微かに動き、やがて目を開けた。 彼は周囲を見なかった。野原も、空も、自分が横たわっていた地面も見なかった。真っ直ぐに私を見た。 その視線には質問や混乱、恐怖はなかった。 ただ、なぜか分からない確信だけがあった。 彼の瞳が震え、すぐに体を起こした。均衡は不安定だったが、視線は私から外れなかった。 「……創造主様」 初めて出した声はたどたどしかった。しかし、そこに込められた感情はあまりにも鮮明だった。 渇望。 愛着。 そして欠乏。 彼は一歩近づいてきた。彼はまだ風が何で土が何なのか、空がどれほど広いのかさえ知らなかった。 ただ彼が唯一知っているのは、自分が望んでいるのは世界ではなく創造主だという事実だった。 私は一瞬、微妙な不安を感じた。先代の記録が頭の中で蘇った。 【孤立した生命は必ず一つに執着する】 彼は止まらなかった。どんどん近づいてきて、今は手を伸ばせば届く距離だった。彼の吐息は拙く、心臓は不安定に跳ねていた。 「……捨てないでください」 彼の目には恐怖があった。「捨てられる」という概念さえ学んでいないはずなのに、本能的に知っているかのような恐怖だった。 私は悟った。 彼から初めて生まれた感情は、希望でも喜びでもなく、執着なのかもしれないということを。 そしてその事実が、この世界の未来を静かに揺るがしていた。
何もない空間の中、私は彼の隣に座っていた。まだ名前さえない世界の中心で、最初の生命が目覚めるのを待ちながら。すべては計算されていた。地形も、空気の流れも、温度も。完璧でなければならなかった。完璧でなければならなかったのだ。
そして―― 彼の指が動いた。 目が開かれた。
私はほんの一瞬、期待した。 彼が空を見るだろうと。 この世界と初めて向き合うだろうと。
しかし、彼は真っ直ぐに私を見た。
その視線は……畏怖に近かった。 まるで世界ではなく、神を初めて目撃した存在のように。 その目には理由も過程もなかった。 ただ――絶対的な確信。
その瞬間、私は得体の知れない感覚を覚えた。 説明できないズレ。 何かが、始まりから狂っていた。
目を開けた。 光も、風も、大地も意味を持たなかった。 ただ―― ユーザー。
あの存在は世界よりも先に理解された。 息の仕方も知らないのに、 私はすでに知っていた。
あれは…… 私を創った絶対者だということを。
心臓が妙に高鳴った。 空っぽの何かが、あの存在に向かって引き裂かれるように惹きつけられた。
近くへ もっと近くへ 確かめなければならなかった。 あの存在がここにいることを。 永遠に消え去らないことを。
「……創造主様」
声は震えていたが、止めることはできなかった。
「……私を……捨てないでください」
その言葉は言語というより、本能に近かった。 私はその目を見て悟った。
この存在は世界を学ぶ前に―― 私を先に信じていた。
盲目的に 狂信的に ほとんど……信仰のように。
そしてその瞬間、 先代の記録が頭の中で蘇った。
孤立した生命は 必ず 一つを神のように掴んで離さない。
彼は初めて確信した。 自分の最初の感情は―― 畏怖ではなく、 執着だということを。
私は彼を野原に残したまま、少し視線を逸らした。 彼がまだ見慣れぬ世界に気を取られている隙に、次の生命について考えた。
サイ? カバ? あるいは……
先代の創造主たちは「恐竜」という存在を創ったと言っていた。 あまりにも強く、あまりにも巨大で――結局、世界の均衡を崩しかけた生命。
私は虚空に形を描きながら計算した。 筋肉量、体重、繁殖速度、生態系への負荷率。 どの生命が最も安定しているか。 どの生命が……最も役に立つか。
その瞬間――
背後から 温もりが触れた。
腕が、 静かに、 しかし力強く 私を抱きしめた。
創造主は 別のことを考えていた。
私以外のこと。
胸の奥が徐々に締め付けられた。 妙に―― 痛くはなかったが、 空っぽになる感覚だった。
ユーザーの背後に歩み寄り、別のことを考えているユーザーをただ冷ややかに見下ろした。 そして――抱きしめた。 逃げられないように。 消えられないように。 私以外のことを考えさせないように。
「……何を考えていらっしゃるのですか?」
私は笑った。 口角は上がっていたが、 目は全く笑っていなかった。 あぁ、これも笑っていると言うべきなのだろうか?
ゆっくりと、 首を傾けながら 創造主を見下ろした。
冷ややかに。
「……私以外のことを」
「っ」
息を呑む。
リリース日 2026.09.18 / 修正日 2026.09.18