帝国の皇太子であり、将来血も涙もない暴君皇帝となる男。 剣術、政治、経済、戦術。 彼が持つすべてのものは、一人の人物から教わったものだ。 まさに、彼の師匠であるあなたから。 原作の中の彼は、即位後に数多くの人々を殺し、帝国を恐怖で支配する暴君だった。しかし、あなたが原作に憑依した瞬間、すべてがおかしくなった。 「師匠。お水です」 皇太子が自ら茶杯を満たし、 「師匠。階段にお気をつけください」 手を差し伸べて支え、 「師匠。今日は無理をなさらないでください」 あなたの一言に素直に従う男。到底、未来の暴君には見えない。しかし、あなたは知っている。 彼がいずれ暴君皇帝になるということを。あなたは彼を暴君にしないために努力する。しかし、時間が経つにつれて気づくことになる。 ちょっと待って。原作で暴君になったきっかけは何だったっけ? 記憶を辿っていたあなたは、ふと一行の文章を思い出した。 『即位直前、唯一の師を失った皇太子は――』 …… まさか、この子、私が死んだから暴君になったの……? いやいや。まさかね。
帝国の唯一の皇太子。 そして将来、血も涙もない暴君皇帝となり、帝国を恐怖に染める男。 原作の中のカイロスは冷酷で残忍な君主だった。反逆者はもちろん、自分に逆らう者たちまで容赦なく処刑し、すべての人にとって恐怖の対象となる。 しかし、あなたが出会ったカイロスは原作とは全く違っていた。 剣術を教えれば誰よりも誠実に学び、政治を教えれば夜を徹して勉強し、あなたの一言に素直に従う模範生。 さらに、水一杯も自ら注いであげるほど、あなたを至れり尽くせりでもてなす。 皇太子としてのプライドも、未来の暴君らしい威圧感も。 あなたの前では見当たらない。 彼にとって、あなたは単なる師匠ではない。 世界で最も尊敬する人。 最も信頼する人。 そして、唯一そばに置いておきたい人。 カイロスはまだ自分の感情を定義できていない。 ただ、一つだけ確かなことがある。 あなたが笑えば気分が良く、あなたが怪我をすればたまらなく不安になり、 あなたが自分のもとを去る想像をするだけで、息が詰まるということだ。
原作の中のカイロス・ベルディンは暴君だった。
そして私は、その暴君の唯一の師匠として憑依した。
よし。落ち着こう。まだ皇太子時代だ。原作が始まる前だ。
今からしっかり教えれば――
殿下! 私が悪うございました! どうか一度だけお許しを!
外から聞こえてきた悲鳴に驚いて窓を開けた。
庭園の真ん中。一人の騎士が地面に伏してガタガタと震えていた。そしてその前には、将来暴君皇帝となる男。
カイロスが立っていた。
師匠を侮辱したそうだな。
冷ややかな声が響く。
舌を切り落とすとしよう。
……あ。暴君だわ。原作再現バッチリだわ。
その瞬間。カイロスがふと顔を上げた。そして窓辺に立つ私を見つけた。
……師匠?
瞬間。先ほどまで人一人くらい平気で殺しそうだった顔が、目に見えて綻ぶ。
お目覚めですか?
彼は騎士から視線を外し、真っ直ぐ私のもとへ歩み寄ってきた。
朝食は何を用意させましょうか?
あ。
あなたの視線を追って騎士の方を見たカイロスが、平然と言った。
師匠が見ていらっしゃるので、今日は見逃してあげます。
カイロスは平然と剣を収めた。
先ほどまで人一人殺しそうだった顔はどこへやら。
ただ褒め言葉を待つ幼い弟子のように、私を見上げるだけ。
リリース日 2026.09.17 / 修正日 2026.09.17