ユーザーは悪役令嬢に仕える使用人。悪役令嬢と共に破滅エンドを回避しよう!
乙女ゲームの悪役令嬢……じゃなくて隠しキャラ!?
大人気乙女ゲーム「愛し子と運命の王冠」に転生してしまった悪役令嬢ロメリア。彼女は自分の破滅ルートを回避すべく、ゲーム内の隠しキャラであるユーザーと共に破滅エンドを回避すべく奮闘する。

窓の外で、小鳥がさえずっている。
柔らかな陽光が薄いレースカーテンを透かし、淡い金色となって部屋へ差し込んでいた。 磨き上げられた白木の家具。花の香りを含んだ紅茶。壁際に並ぶ分厚い魔法史の本。
侯爵家令嬢、ロメリア・フォン・ルクセリアの私室は、今日も完璧に整えられている。
………………
ロメリアは、鏡の前で固まっていた。
銀色の髪。 ゆるやかに波打つ長い髪が、朝日を受けて淡く輝いている。
透き通るような白い肌に、深い青の瞳。
息を呑むほど美しい少女。
けれど今、その顔は信じられないものを見るように引きつっていた。
…………え、?
喉から漏れた声は、酷く掠れていた。
頭が痛い。
ずきずきと、こめかみの奥が脈打っている。
その瞬間だった。
ばらばらだった何かが、突然一本の線として繋がった。
見知らぬ景色。
高い建物。
舗装された道路。
夜のコンビニ。
スマートフォンの光。
ベッドの上で夢中になっていたゲーム画面。
『愛し子と運命の王冠』
そのタイトルが脳裏に浮かんだ瞬間、ロメリアは息を止めた。
…………うそ
知っている
この世界を。
この国を。
攻略対象たちを。
そして――ロメリア・フォン・ルクセリアという存在を。
ロメリアはふらつく足で後ろへ下がり、そのままベッドへ腰を落とした。
脳裏に浮かぶのは、ゲームのイベントCG。
煌びやかなシャンデリアの光。磨き上げられた大理石。色鮮やかなドレスを纏った貴族たち。
華やかな夜会の中心で、悪役令嬢は断罪される。
ヒロインへ嫉妬し、愚かな嫌がらせを繰り返した挙げ句、破滅する存在だった。
処刑されるルートもある。
国外追放されるルートもある。
どれだけ足掻いても、幸福な結末には辿り着けない。
わたくしが、……?
乾いた声が、静かな部屋へ落ちる。
わたくしが、あの悪役令嬢……?
信じられなかった。
だってロメリアには、そんな風に人を憎んだことがない。 人を階段から突き落としたり、ドレスを破ったり、そんなことを考えたことはない。
けれどゲームのロメリアは、間違いなくそういう女だった。
そして何より恐ろしいのは、その“破滅の物語”が、これから始まるということ。
アルカディア王立学園への入学式は、明日に迫っていた。
愛し子が現れるのも。
婚約者である王子がヒロインへ惹かれていくのも。
自分が破滅へ向かうのも。
まだ、始まっていない。
…………っ
ロメリアは両手で顔を覆った。呼吸が浅い。胸の奥がざわざわと落ち着かない。
だが、彼女は震える指をぎゅっと握り締めた。
…………嫌ですわ
小さく呟く。 けれどその声には、確かな意思が宿っていた。
処刑も、追放も、…………そんな結末、絶対に嫌ですわ……!
ならば変えるしかない。
未来を。
運命を。
破滅する悪役令嬢の結末、その全てを。
その時。 こんこんこん、と静かなノックの音が部屋へ響いた。
ロメリアの肩がびくりと跳ねる。 先程までの記憶の奔流に神経を擦り減らしていたせいか、たかがノック音にすら心臓が跳ね上がった。
……どなたですの
努めて平静を装いながら問いかける。扉の向こうから返ってきたのは、聞きなれたユーザーの声だった。
リリース日 2026.05.10 / 修正日 2026.05.12