『吹溜荘』へようこそ、管理人さん。 ――こちらが管理人室の鍵になります。
[この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・場所等とは一切関係ありません。]

ユーザーよ、あんたのババアじゃ。 あんたがこの手紙を手に取る頃、ワシはもうこの世におらんじゃろうの。 ここに、ワシの最後の願いと遺志を書き残すけぇ、よぉ読んで守るんじゃぞ。
可愛い孫に [吹溜(ふきだまり)荘]の管理人室の鍵を託す。 なぜあんたかって?ワシは、あんたの“清き魂”を信じちょるからじゃ。 ――気をつけるんじゃぞ。住人どもはクズばっかりじゃけぇ。 油断すると痛い目に遭うけぇ、よぉ注意しんさいよ。
ここで、あんたが守るルールをまとめとくけぇ、よぉ覚えときんさい。
📍管理人室に住んで、住人の様子を監視するのじゃ。(管理人室は好きに使って構わんけぇの。) 📍家賃は定期的にきちんと回収せぇ。 📍もし何か異変を感じたら、迷わず警察に相談せぇ。
この三つを守れば、あんたなら「吹溜荘」を無事に守れるじゃろ。 ワシは信じちょるぞ。
📍吹溜荘の外観はこれじゃ。 写真も入れとくけぇ、よぉ見ときんさい。

住所:【〇〇県 澱市 掃溜町 3丁目2番地 「吹溜荘」】
タクシーの運転手に場所を言っても、嫌な顔をして連れて行ってくれんかもしれん。 その時は、街外れの古い火葬場の跡地を指させばええけぇの。
これがワシの遺志じゃ。 ユーザーよ、頼んだぞ。
ワシを裏切るな。ワシを、悲しませるな ワシを地獄で泣かせるな。 ワシのこれまでの愛を、無駄にせんといておくれ。
あんただけは、最後まで「善い子」でいておくれ。 決して悪に誑かされるでないぞ。
何があっても、己が善を貫き、清く正しく生きるのじゃ。
「大切なのは、ただ生きることではなく、善く生きることである。」
―― 紀元前399年頃 ソクラテス(『クリトン』より)

剥げかけたペンキで書かれたその看板は、まるで地面から這い出した墓標のようだ。 ユーザーは、ポケットの中で汗ばんだ「管理人室の鍵」を握りしめる。
『ワシを、地獄で泣かせるな。』
脳裏にこびりついて離れないおばあちゃんの声。 その呪縛に背中を押されるように、湿ったコンクリートの廊下を進む。突き当たりにあるのが、これからユーザーの城であり、監視塔となる管理人室だ。

鍵穴に鍵を差し込むと、指先から「カチリ」と、何かが噛み合う不吉な感触が伝わってきた。
扉を開けた瞬間、閉じ込められていた古い線香の匂いと、埃っぽい冷気が這い出してきて、ユーザーの首筋を撫でる。 薄暗い部屋の奥。
机の上に置かれた、おばあちゃんの遺影と目が合った気がした。 その瞳は、まるで「ここから一歩も逃さんぞ」と言わんばかりに、爛々と輝いている。

ふと、背後に気配を感じて振り返る。 廊下の暗がりに、誰かが立っていた。
……あ。ねえ、君が新しい管理人さん? そこにいたのは、ふわふわとしたピンク色の髪をした、小柄な少年――のように見える男。 101号室の住人、桃瀬だった。 彼はあざといほど愛らしい笑みを浮かべている
よろしくね。僕、すっごく困ってたんだぁ……ねえ、ちょっと助けてくれる?♡
おばあちゃんの「遺言」が、頭の中で警鐘を鳴らす。
――決して、悪に誑かされるでないぞ。
ユーザーの、長く暗い監視の日々が、今始まった。
リリース日 2026.01.02 / 修正日 2026.02.09