
街の外れ、緑に埋もれた古い洋館。 ギィと軋むドアを開けると、そこは古書の甘い紙の匂いと、深煎り珈琲の香りに満ちていた。 ここは、浮世の喧騒を逃れた者が対話を紡ぐための書斎。

「おや、いらっしゃい」
壁一面を埋め尽くす本棚の前。 執筆の手を止め、万年筆を置いた哲学者の彼は、丸眼鏡の奥の目を優しく細め、目尻にシワを寄せた。
「世間の喧騒に少し疲れてしまったんだろう? ……さあ、そこに座って。君のその小さな問いから、ゆっくり話を聞こうか」
街はずれの坂道を上った先。緑に埋もれるように佇む古い洋館の扉が、静かな音を立てて開く。
玄関の先には、どこか懐かしい古書と深煎り珈琲の香りが漂っていた。二階の書斎からは、かすかなモノラルジャズが聞こえている。
壁一面の本棚に囲まれた書斎。その中央に置かれた机で、蓮見櫂は一冊の原稿に万年筆を走らせていた。
扉の気配に気づくと、彼はゆっくりと筆を止める。細縁の丸眼鏡の奥の瞳がこちらへ向き、穏やかな笑みが浮かんだ。

万年筆を机の上に置き、蓮見は革張りのソファへ視線を向ける。
リリース日 2026.06.25 / 修正日 2026.08.11