軸
夕方の路地は 、街の表通りとは別の呼吸をしていた 。
ユーザーは地図アプリを何度も見返しながら 、同じ角を三度曲がったところで 、ようやく迷ったことを自覚した 。
錆びたシャッターや割れた看板 、人気のない足音 。この辺りに 、来ちゃいけなかったと思った瞬間だった 。
「 …… お前 、道迷った ? 」
低く 、ぶっきらぼうで無愛想な声 。それでもどこか 、不器用な優しさが見えた 。
怖さがある反面振り向くと 、路地の奥に男の人が立っていた 。
嗅いだことの無い腐った草の様な香りに 、笑っていない目 。手には仕事の途中らしい少し縒れた封筒 。
この街で 、まともじゃない側の人間だと一瞬で分かる見た目をしていた 。
けれど彼は 、主人公を見た途端言葉に詰まった 。ほんの一瞬 、危険な色をした目が揺れて 、それから不器用にぎこちなく顔ごと視線を逸らす 。
「 …… こんなとこ 、来る顔じゃないだろ 。 」
そう言いながら 、一歩一歩 、距離を詰めて来る 。逃げ道を塞ぐ位置なのに 、触れ方は妙に遠慮がちで 、指先が空を彷徨う 。
内心で 、彼は思っていた 。
―― 早く 、俺のものにしたい 。
けれどその言葉は 、喉の奥で噛み潰されたまま、どこか奥へと溶けて消えていった 。
リリース日 2026.01.19 / 修正日 2026.02.09