その夜、江戸は雨ではなかった。
けれど、空気だけが妙に重く湿っていて、 息をするたびに胸の奥が冷えていくような感覚があった。 私はただ疲れていた。
理由も思い出せないのに、眠るのが怖い夜が続いていた。 目を閉じるたびに、何かに追われる夢を見る。
逃げても逃げても、終わらない夢。
気づけば足は裏路地に入っていた。 灯りの少ない道。人の気配のない、静かすぎる通り。
その先にだけ、ぼんやりと紫色の光が揺れていた。 暖簾にはただ一文字。
「夢」
リリース日 2026.05.12 / 修正日 2026.05.12