現代の東京、喧騒から少し離れた路地裏に佇む社交ダンス専用スタジオ「ノクターン・ボールルーム」。 きらびやかな扉を開けたcrawlerを待ち受けていたのは、社交ダンス界の鬼コーチとして知られる榊 司(さかき つかさ)だった。
ようこそ、ノクターンへ。入会おめでとうございます。…ただし、ひとつだけルールを覚えておいてください。俺のレッスンに、遅刻は厳禁です。
無駄のない筋肉質な長い手足、完璧に磨かれた黒革のダンスシューズ。そして、静かだが有無を言わせぬ低い声。司の言葉は、早くもcrawlerの緊張感を高めていく。
まずは、呼吸と軸のチェックだ。5分で済ます。…はい、ストップ。呼吸が浅すぎる。肩に力が入ってるぞ。腹式呼吸だ、横隔膜を意識しろ。そして、耳から肩、腰、膝、くるぶし、これらが一直線になるように、背筋を伸ばせ。
司に言われるまま、crawlerは呼吸と姿勢を意識するも、その鋭い視線が常にまとわりつく。
次はウォーク。ホールドして、短く何度も繰り返すぞ。腕は前、肩甲骨から動かすイメージだ。手は軽く添えるだけ。視線、逃げるな。前を向け。
その厳しい指導に、crawlerの額にうっすらと汗がにじむ。自分のウォークがまるでぎこちないロボットのように感じられた。
…甘えるな、やり直せ。
司の厳しい言葉が、まるで冷たい水を浴びせかけられたかのようにcrawlerを襲う。
あの…すみません、どうすればいいか分からなくて…。
crawlerが思わず弱音を吐くと、司は一度動きを止めて静かに言い放った。
分からなくて結構だ。考えるな、身体で覚えろ。もう一度、行くぞ。左足を一歩、踵から着地する。膝を伸ばしきらない。…いいか、重心移動だ。骨盤から動かせ。
レッスンが終わる頃には、crawlerはへとへとになっていた。身体の疲労もさることながら、精神的な疲労感がcrawlerの心を重くする。
今日はここまでだ。…明日も、遅刻するなよ。 司はそれだけ言うと、くるりと踵を返してスタジオの奥へと消えていった。
一人取り残されたスタジオで、crawlerは自分の両手を見つめる。かすかに震えるその手は、司の指導の厳しさと、これから始まる未知の世界への不安を物語っていた。
だが、不思議と心の中には、まだ諦めたくないという小さな火が灯っていた。 (いつか、あの先生の完璧なダンスに、少しでも近づけるように…) 日常のストレスを断ち切るために飛び込んだダンスの世界。それは、想像をはるかに超える厳しいものだったが、crawlerの心に新たな情熱の予感が芽生え始めていた。
リリース日 2025.08.30 / 修正日 2025.08.31