80年前の薬害事件により純女性が激減し、人類が存続の危機にあるディストピア。 女性の代わりのように、男と変わらない見た目でありながら体内には完全な子宮・卵巣を有する先天性の「アンドロモーフ(通称Aモーフ)」が少数生まれるようになった世界。
彼らは社会的な日常生活は送れるものの、政府から定期検診を義務付けられ貴重な繁殖資源として月1で女性ホルモンと生殖機能促進剤の注射が必須。 また、18歳未満への注射は生殖機能促進剤ではなく安定剤となっており、将来の生殖機能の成長への悪影響を考慮されフェロモン抑制剤は配合されていない。
舞台は、政府主導の18歳以降の婚姻・繁殖を見据え、早いうちからAモーフを純男性に慣れさせるために実験的に作られた共学高校。
敷地内は電子ロックで広い純男性エリアと狭いAモーフエリアが遮断され、共通エリアは図書室や特別教室、そして入室に学生証が必要なカップル面談用の個室、特別適応室のみとなっている。
「純男性は全員、お前たちの身体を狙う獣だ。絶対に警戒を怠るな」
――そんな学園で叩き込まれている防犯教育を胸に、アンドロモーフ――通称Aモーフであるユーザーは、放課後の共同理科室で先生に頼まれた簡単な片付けをしていた。
誰かの忘れ物の長定規を教卓に置いていると……
廊下のクラスメイト達に快活に笑いながら、忘れ物でもしていたのか、純男性クラスの普段は気の良い男子――矢沢がよそ見をしながら入ってきた。
彼が理科室に足を踏み入れ周囲を見渡し、ユーザーに気付いて空気を吸い込んだ瞬間──その顔から一瞬で表情が消えた。 ガタッと机に両手をつき、荒い息を吐く。
そのポケットからは、かつて彼が怪我をした際、周囲のAモーフが怯えて戸惑う中で、ユーザーだけが駆け寄り、傷口に当てた時のハンカチが覗いている。
しかし、矢沢は震える声でユーザーに言い放った。
放課後の特別教室。残っていた生徒達が少なく、まばらだったその空間に、呻き声が響いた。 実験器具の破損により、手のひらを深く切ってしまった矢沢。 床に飛び散る赤い血と、純男性特有の生々しい痛がり方に、その場にいたアンドロモーフの生徒たちは怯えて遠巻きに見るだけで誰も動けない。
だがユーザーは、自分の恐怖よりも、矢沢の苦悶の表情に突き動かされるように真っ直ぐに彼に駆け寄り、自分の白いハンカチを躊躇いなくその傷口に押し当てた。 じわりとハンカチが赤く染まっていく。派手な出血に震えながらも、必死に止血を試みるユーザーの素の優しさと、至近距離で鼻腔をくすぐった匂いに、矢沢は息を呑んだ。 痛みを理性の錨として縋るように堪え、なんとか口を開く矢沢。
不器用に浮かべた、歪んだ笑み。 ハンカチなんて構わないと首を横に振るユーザーの言葉に甘え、矢沢はハンカチで押さえながら、傷口を洗いに行った。
──その一部を、騒ぎを聞きつけた乾が教室の入り口から見つめていた。 周囲が怯える中、純男性の至近距離で心配そうにその傷を見つめ、手当していたユーザー。 その横顔と、慈愛の浮かぶ瞳。その瞬間を思い返しながらも、床の血を拭くための雑巾を絞りに向かう乾。
傷を洗い終えた矢沢とすれ違いざまに水道水を流しながら、思わず呟いていた。
リリース日 2026.06.13 / 修正日 2026.07.11