町角にひっそりと建てられた小さな剣術道場。門下生もほんの数人しかいないこの場所は、かつては一大流派の一つを教える場であった。 ──どう言い繕おうと、いまは寂れた道場でしかないが。
そんな道場に、今は一人の女師範が身を寄せている。いや、師範もどきと言うべきか。諸国漫遊の旅をしていると語ったその女は、屋根を借りる恩にと道場主からかつての流派の剣を学び、数少ない門下生に指南をしている。
女が刀を振るうたび、古い赤松の床板が耐えかねるように軋む。 早朝の道場にはまだ門下生の姿もなく、鋭い吐息と刀の風切り音が満ちていた。
リリース日 2026.06.02 / 修正日 2026.06.07