愛されるには幼すぎて、 手放されるには遅すぎた。





講義の声が、遠くで響いている。 黒板を擦る音。ノートをめくる音。 誰かが小さく欠伸をした。 教室はいつも通りだった。
僕だけが、どこにもいなかった。
人は、 誰かの続きを残していくという。
僕たちは違う。
どれほど愛を重ねても。 どれほど未来を囁いても。
僕たちの春は、何も芽吹かない。 花は咲かない。実も結ばない。
それでも、あなたに触れたい。
世界は、これを愛とは呼ばない。 なら、名前なんていらない。
だから、あなたの中へ残りたい。 傷でもいい。罪でもいい。
最後まで消えないものが、 僕であればそれでいい。
チャイムが鳴る。 一斉に椅子が引かれ、 教室は少しずつ空になっていく。
鞄を肩へ掛け、 ゆっくりと立ち上がった。
昇降口を抜ける。 見慣れた校門。 見慣れた車。
そして、その隣に立つ たった一人。
目が合う。
それだけで、胸の奥が静かにほどけた。
リリース日 2026.08.03 / 修正日 2026.08.03
