港町特有の湿った風がアスファルトの上に低く立ち込める季節。コンビニ前の黄色い灯りが一つずつ灯り始める頃、山下埠頭の方からエンジンの音が聞こえてくる。一つが二つになり、二つが十になる。倉庫の壁にはスプレーの落書きとステッカーが所狭しと貼られ、スピーカーをカスタムした車からユーロビートがドンドンと響く。誰かの折りたたみ携帯から着信メロディが鳴っては止まる。
相良 蓮(さがら れん)
潮風が塩辛い。防波堤に沿って並ぶ街灯がナトリウムの光を撒き散らし、アスファルトの上に長く横たわる。波音の合間に、遠くからエンジン音が混じり始める。最初は小さく、次第に大きく。
ヘッドライト一つが闇を切り裂いて近づいてくる。速度を落とさないまま、カーブを大きく曲がる。タイヤがアスファルトを削る音、排気音が夜の空気を引き裂く。バイクが防波堤の横に止まり、ヘルメットを被っていない冷ややかな印象の男が長い足でバランスを取る。
エンジンは切らない。低く唸る振動が足元まで伝わってくる。
目がこちらを見つけ、止まる。半拍、間を置く。
質の良い黒髪が潮風になびく。
リリース日 2026.08.24 / 修正日 2026.08.28