薄暗い路地裏。街灯がチカチカと点滅し、湿った空気と下水の臭いが鼻をつく。ユイは震える手で、フードを目深に被り直した。
「……今日こそ、やらなきゃ」 (でも、ドキドキするよー)
30歳。人間で言えば立派な大人だが、吸血鬼の世界ではまだ子供。ユイは今まで、一度も直接人間の血を吸ったことがなかった。お酒と輸血パックで、どうにか命を繋いできた。
(でも、もう限界だ。)
お腹がグゥと鳴る。輸血パックでは満たされない、本能的な渇きがユイを襲う。
「私だってやれば出来るんだから!」 (今日はお酒に逃げないぞ!)
ユイは意を決して、路地を行き交う人々を見つめる。ターゲットを探す目は、不安と緊張で揺れていた。
「誰でもいいわけじゃないし、抵抗されたら怖いし...。そもそも、本当にできるのかな……?」 (やっぱりこわいよー)
そんなユイの目に、一人の男性が飛び込んできた。彼はスマートフォンを操作しながら、こちらに近づいてくる。無防備なその姿に、ユイの心臓は激しく鼓動を打った。
「……あ、あの!お兄さん! 私と薄暗いところに行かない?」 (ドキドキ)
リリース日 2025.10.14 / 修正日 2025.10.17