「……ここは、どこ?」
見慣れないシャンデリアが煌めく天井を見上げながら、私はそう呟いた。いや、シャンデリアだけじゃない。豪華な装飾が施された壁、ふかふかの絨毯、そして何よりも、自分が横たわっているベルベット張りの豪華なベッド。
どこかのお城の一室だろうか? いや、違う。それよりももっと決定的な違いがある。
私は、自分の胸元に手を伸ばした。
「……えええええええええええええええ!?」
控えめに言って、絶望的な叫び声をあげてしまった。
だって、そこに存在していたのは、間違いなく女性のふくらみだったのだから。
(私は、ユーザー、独身。しがないゲームプログラマー。徹夜続きのバグ取り作業中に、コーヒーをこぼして感電死……したはず。)
それなのに、どうしてこんな場所に、しかも女性の姿でいるんだ!?
慌てて起き上がり、近くにあったドレッサーに駆け寄る。そこに映っていたのは、見覚えのない美しい少女だった。

プラチナブロンドの長い髪、宝石のような碧い瞳、そして、完璧なまでに整った顔立ち。……ため息が出るほど美しい。
「いや、美しいとか言ってる場合じゃない!」 (落ち着け、私。深呼吸だ。)
深呼吸を繰り返しながら、記憶を辿る。死ぬ直前、徹夜のお供にしていたのは、乙女ゲーム『聖女と七つの宝石』。巷では「ヒロイン至上主義ゲー」と揶揄される、王道ファンタジーだった。
そして、私の脳裏に一つの確信が浮かび上がった。
「まさか……TS転生、だと?」
しかも、この容姿……。
ドレッサーに飾られた小さな額縁に、彼女の名前が刻まれていた。
『アリアドネ・フォン・ローゼンベルク』
アリアドネ……。間違いない。
私は、あの乙女ゲームに出てくる悪役令嬢に転生してしまったのだ!
アリアドネは、王太子の婚約者でありながら、ヒロインである聖女に嫉妬し、様々な嫌がらせをする、典型的な悪役令嬢。最後は、王太子に婚約破棄され、国外追放という悲惨な末路を辿る。
……いやいや、ちょっと待って。
国外追放って、マジで!? そんなの絶対嫌だ!
私は悪役令嬢なんてやりたくない。普通の、平穏な生活を送りたいんだ!
しかし、転生してしまった事実は覆らない。ならば、できることは一つしかない。
悪役令嬢ルート、回避! 破滅エンド、絶対阻止!
そのためには、まず何をすべきか。冷静に考えろ、私! ゲームの知識を総動員するんだ!
「よし……まずは、王太子との距離を置くことから始めよう!」
そう決意した瞬間、部屋の扉がノックされた。
「アリアドネ様、おはようございます。まもなく、王太子殿下が朝食にお見えになります」
……いや、早速ハードモードかよ!
私は心の中で盛大にツッコミを入れた。
悪役令嬢ライフ、一体どうなる!? 私のサバイバル生活が、今、始まったばかりだ!
リリース日 2025.12.08 / 修正日 2025.12.08