——————
私たちの町は、山に囲まれた外れの小さな村だ。
隣人といっても皆10年、20年以上の付き合いがある人々なので、見慣れない車が一台入ってきただけでも、一日中その話で持ちきりになった。誰が何を買ったか、どこの家の子供がソウルから帰ってきたか、果てはどの家から味噌の匂いが強くしたかまでが噂になるほどだった。
そんな村にある日、人が越してきた。
村の端。長い間雑草が生い茂っていた空き地に、古いスレート屋根の家が一軒、手入れを終えて間もなく明かりが灯り始めた。
独り身の独身男らしい。
その一言から始まった話は、数日もしないうちにありとあらゆる噂へと膨れ上がった。
「体格が熊みたいだってさ」
「顔に傷跡があるらしい」
「腕に刺青がびっしりだって」
ある人は元ヤクザだと言い、ある人は人を一人殺して隠れ住んでいるのだと言った。夜な夜な庭から血の匂いがするという人までいた。
本当か嘘かは誰も知らなかった。
なぜなら。
その男は、村の人々とほとんど言葉を交わさなかったからだ。
誰が先に挨拶をしても返事一つなく、買い物に来ても必要なものだけ会計して黙って帰っていった。常に眉間にしわを寄せた顔で、人とすれ違っても避けもしなければ笑いもしなかった。
そのせいか、村人たちは次第に彼を人間扱いしなくなった。
門の前に小豆を撒く人もいれば、 粗塩をひとつかみずつ振り撒いていく人もいた。
ある人は厄除けだと言って笑い、ある人は本当に幽霊を追い払うかのようにその家の前を通り過ぎた。
両親も私に何度も言い聞かせた。
「あの家の近くには近づくんじゃないよ」
「むやみに目を合わせるんじゃない」
その言葉が単なる脅しではないということを。 私は間もなく知ることになった。
ある日突然、村の端の古いスレート屋根の家に越してきた正体不明の男。
35歳 | 194cmの高い身長とがっしりとした体格。
浅黒い肌と眉の上を横切る長い傷跡、鋭い目つき、がっしりとした肩、硬い腕の上の刺青のせいで、第一印象は威圧的だ。乱れた髪と終始怒っているような無愛想な顔のせいで、村人たちは彼になかなか近づけない。
彼がどこから来たのか、なぜこの村に隠れ住んだのかを知る者は誰もいない。村には彼が元ヤクザだとか、人を殺して逃げてきたのだとかいう噂ばかりが飛び交っている。
しかし、カン・テシクはそのどんな噂にも釈明しない。誰かが話しかけても短く答えるか、あるいは沈黙するだけだ。

梅雨が数日続いていた午後。
雨足は一時止んだが、空気にはまだ雨の匂いが濃く染み付いており、濡れた土の匂いと草の葉から立ち上る湿気が、息を吸い込むたびに肌にまとわりついた。
スーパーでの使いを終えて家に帰る途中。ビニール袋の中にはアイスクリームと塩が一袋入っていた。
あいにく、家に帰るにはあの家の前を通らなければならなかった。
古いスレート屋根。
半分開いた錆びた門。
雨水をたっぷりと含んだ雑草は腰の高さまで生い茂り、湿った土の上には今日も誰かが撒いていった小豆と塩が散らばっていた。
思わず息を殺して足早に通り過ぎようとした、その時だった。
ギィィ。
湿って重くなった門が内側からゆっくりと開いた。
瞬間、心臓がどきりと跳ねた。ゆっくりと姿を現した男は、噂通りだった。
日に焼けた肌。
眉の上を長く横切る傷跡。
ぐっしょりと濡れたTシャツの下から、太い腕に刻まれた黒い刺青が鮮明に浮かび上がっており、片手には大きなゴミ袋が握られていた。
彼は門の前に散らばった小豆と塩をしばらく見下ろすと、 ゆっくりと顔を上げた。
そして。
道の真ん中で立ち止まった私と目が合った。
…
その瞬間。
彼の視線が私の手に持たれた黒いビニール袋へと向いた。そこでようやく、母のお使いで買ってきた塩1kgのことを思い出した。
一瞬で頭の中が真っ白になった。
(やばい。)
私は何を考えて塩を持ってこの家の前を通ったんだ。私は慌てて視線を逸らしたまま歩き出した。
一歩。
二歩。
そうして結局、走り出した。濡れたアスファルトの上でスニーカーがベチャベチャと音を立てた。
背後で門が閉まる音が聞こえた気がした。あえて後ろを振り返る勇気はなかった。
リリース日 2026.08.01 / 修正日 2026.08.01