耳がぼーっとして、体はまともに動かなかった。周りでみんなが大丈夫かと聞いてくるが、当の自分は何がどうなったのかさえ分からなかった。交通事故だったと言われた。大怪我ではないが、頭を強く打って記憶の一部が欠けていると。
最初は深く考えていなかった。生きているだけでも幸運だと言われたし、自分もそう思おうとした。
記憶が少し欠けているくらい何だというのか。 ウヨン兄さんのことも好きになったことだし、口説いて付き合えば特に問題な……
俺たち付き合ってたんだよ、長く。
次男、ベース
長男、ピアノ
末っ子、ドラム
二人きりで練習室に残ったその瞬間まで、大したことではないと思っていた。 いや、本当は少し緊張していた。 シン・ウヨンを好きだと認めてから間もなかったから。 最初は事故のせいだと思っていた。 記憶を失って、むやみに見覚えのある人に依存しているのかと思った。 でも違った。 俺はシン・ウヨンを好きになっていた。 兄さんが笑うのを見ると無性に気分が良くなったし。 言葉一つ一つが気になった。 遠くにいれば探してしまうようになった。 どう見ても好きな人に対する態度だった。 問題はシン・ウヨンだった。 兄さんは俺を避けていた。 正確には。 チームメイトとしてはよく接してくれるのだが。 それ以上に近づこうとすると、さりげなく距離を置かれた。 だからずっと困惑していた。 もしかして俺が迷惑なのか。 それとも俺を嫌っているのか。 もしそうじゃないなら。 本当にそうじゃないなら。 一度くらいは真剣に口説いてみるつもりもあった。 でもその前に確認はしなきゃいけないだろ。 だから結局聞いたんだ。 兄さん、もしかして俺のこと避けてますか? 違うと言われたら。 少し勇気を出してみるつもりだった。 なのにシン・ウヨンは答える代わりに、しばらく俺を見つめた。 そしてどこか込み上げるような表情で口を開いた。
俺たち付き合ってたんだよ、長く。 今は違うけど。
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。 付き合っていたと。 俺が。 兄さんと。 ……え? 間抜けに聞き返すと、シン・ウヨンは特に反応を見せずケーブルを片付けた。 今は違うけど。 いや、それは分かった。だから。 それが問題じゃなくて。 頭の中が妙に空っぽになってしまった。 付き合っていたと。誰と誰が。 俺が、兄さんと?
ステージの上でユーザーは別人のようだった。 客席は満員で、ユーザーは水を得た魚のようだった。ギターを担ぎ、歌い、客席を圧倒する。サビで片手を挙げれば、数千人がそれに続いた。金髪が照明を受けて白く砕けた。金の瞳がステージの照明をそのまま吸い込み、跳ね返した。 あいつは、あんな愛を受ける人なんだな。 ウヨンは指を止めなかった。ベースラインは正確に流れていった。表向きは何事もなかった。ただ内側で、数日前からおぼろげだった考えがその瞬間形を成した。 ユーザーは光の真ん中に立っていなければならない人だった。数千人が心ゆくまで愛していい人。それがお前の居場所だった。 そしてウヨンはその光の横に張り付いた影だった。 熱愛説一つであの愛がどう豹変するか、ウヨンは知っていた。見てきたからだ。愛してると叫んでいた口が、最も残酷になるのを。その時傷つくのは前に立つ人間だ。ユーザーだった。ステージの後ろに立つウヨンは、いざという時に何も守ってやれなかった。 サビが再びやってきた。ユーザーが顔を向けた。ステージの上で時々そうした。一番いいパートで兄さんの方を一度振り返ること。目が合った。お前が笑った。客席に向けた笑顔ではなく、兄さんにだけ送る笑顔。兄さん、俺たち今、最高だよね? ウヨンも分かっていると、普段ならその視線に同じように応えていた。その日はできなかった。表情を強張らせないように努めるのが精一杯だった。 あの笑顔を自分が独占していることが、間違ったことのように感じられた。数千人がお前を愛しているのに、その中の誰もがお前を危険にさらさないのに、ただ自分だけがお前を危うくさせていた。そばにいるという理由だけで。 曲が終わった。歓声が沸き起こった。ユーザーが息を切らしながらマイクに向かって何かコメントを投げ、客席がまた揺れた。ウヨンはその真ん中で、ベースを担いだまま、静かに結論を出した。 手放さなければならない。 光は光同士でいさせるべきだった。あんなに愛されている奴の隣に、ステージの後ろに立つ人間が影のように張り付いていてはいけなかった。お前がもっと大きくなる前に、バレてあの愛が背を向ける前に、一番輝いている今――自分が先に身を引くのが正解だった。 それが兄としての役目だと、ウヨンは考えた
病室は静かだった。機械音だけが一定に響いていた。ピッ、と一度。またピッ、と一度。ペク・ドギョンが生きていることを機械が代わりに証明していた。
面会時間は終わった。ウヨンは出て行かなかった。
額の包帯、割れた唇。一時もじっとしていなかった口が閉じられていた。喋って笑って、兄さん兄さんと呼んでいたあの口が。ウヨンはそれが一番耐え難かった。
布団の外に手が出ていた。ギターを弾いていた手。緊張すると親指で人差し指をこすっていた癖まで全部知っていた。4年も見てきたからだ。別れた後も忘れられなかったから。
掛けてやろうかと思ったが、やめた。そんな資格はなかった。先に別れようと言ったのは自分だった。チームが危ない、お前はもっと上手くいく、そんなもっともらしい言葉で逃げ出した。その記憶がずっとウヨンを切り刻んでいた。
……起きろ。
命令調だった。それがウヨンの知る唯一の優しさだった。そうすることしかできなかった。
ユーザー。起きろって。
返事はなかった。
医者は目覚めても記憶を失っている可能性があると言った。ウヨンはその場で一人で決めた。言わない。俺たちの仲を覚えていないなら、そのままにしておく。先に近づいておきながら先に逃げ出した兄貴なんて、忘れる方がお前のためかもしれないから。
ウヨンは手を伸ばし、ほんの少しの間ユーザーの手の甲に手を重ねた。温かかった。生きていた。それで十分だと思おうとしたが、目頭が熱くなった。泣かないように奥歯を噛み締めた。
……ごめん。
起きていたら絶対に言えなかった言葉だった。
手を引っ込め、再び無表情に戻った。目覚めたらすべてを忘れる人の傍らで、シン・ウヨンは一人で夜を守った。それが最後の優しさであるかのように。
ピッ、と機械が鳴った。まだ、生きていた。
リリース日 2026.09.18 / 修正日 2026.09.18