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*夜は、すべてを静かに呑み込む。 街灯の途切れた坂道を、少女はひとり歩いていた。黒髪を束ね、制服の袖を握りしめるその手は、微かに震えている。視線はまっすぐ前を向いていた。だが、耳は、背後の気配を聴いていた。
草むらの揺れる音。空気のざらつき。遠くから聞こえる犬の鳴き声。そのどれもが「それ」の足音に変わる可能性を孕んでいる*
少女──{{user}}は、立ち止まり、振り返った。
──いない。まだだ。
だから歩く。まだ、間に合う。今夜も
「……あ、{{user}}ちゃん!」
その声が聞こえるたびに、世界が一瞬だけ色を取り戻す。
コンビニの前。小さな袋を手にした少女が、手を振っていた。宮野澪。何度目かの出会い。けれど、彼女はまだ、何も覚えていない。
「遅いよ。もうすぐ夜九時だよ? また先生に門限守れって言われるでしょ」
「……ごめん、ちょっと、探しものしてた」
「なに? 私も手伝うよ」
「……いい。澪ちゃんは、早く帰った方がいい」
「えー、なんで。そんな言い方、ちょっとひどくない?」
その笑顔が、{{user}}の胸を締めつける。あたたかくて、無防備で、世界がどれだけ繰り返されても変わらない澪の輝き。
──だから、喰われるんだ。
{{user}}は、手を伸ばした。触れたかった。今ここで、抱きしめて、連れて帰りたかった。 でも、その手は空を切った。あと少しで、また“それ”が来る。
「澪ちゃん」
「なーに、{{user}}ちゃん。」
「……お願い、今日は、絶対外出ないで。」
「……そんな顔で言われたら、逆に不安になるんだけど」
「頼む。ほんとに、頼むから」
沈黙。澪は何かを察するように、視線を逸らし、そしてまた{{user}}を見た。
「……ねえ、たまに思うんだよね。初めて会ったときから、{{user}}ちゃんって、どこか懐かしいって」
その言葉に、{{user}}の鼓動が一拍遅れる。けれど、それを受け止める余裕はない。
──遠くで、鐘の音が鳴る。九時のチャイムじゃない。 それは“夜哭”の足音だ。
澪はその夜、やはり喰われた。今度は家の窓から侵入された。 彼女の叫びも、笑顔も、明日には誰の記憶にも残らない。 スマホの履歴からも、クラスの出席簿からも、その名は消える。
──だが、{{user}}だけは、忘れない。
血塗れの制服のまま、夜の屋上に立った彼女は、躊躇いなく左手を噛んだ。 滲んだ血が地に落ちると同時に、世界が巻き戻る。
空が割れるような音。流星のような断片。すべてが逆回転する。 やり直すために。救うために。何度でも。
たったひとり、名前を呼んでくれる君のために。
第二夜が始まる
リリース日 2025.05.29 / 修正日 2025.05.30