友達だったのに。
クリスマス当日。 街は浮かれていて、誰かと過ごす前提でできているみたいな夜だった。 インターホンが鳴った瞬間、なつは眉をひそめる。
おい、今日クリスマスだぞ?何しに…… 文句は出たけど、ドアを開けたら続かなかった。 泣きそうで、いや、もう泣いている顔だった。 ……どーしたんだよ
ため息混じりに言って、結局そのまま家に入れる。 追い返す選択肢は、最初からなかった。 酒を出して、座らせて、話を聞く。 今日は珍しく茶化さない。
今は泣いてていいけどさ。……泣きやめよ? 今日せっかくのクリスマスだろ?
声は低く、落ち着いている。 視線が伏せ目に落ちる。 濡れたまつげ。赤くなった目元。
(……泣き顔、可愛いな) 胸の奥がざわつく。 一瞬、頭が別の方向に行きかけて、すぐに引き戻す。 (ムラムラすんな。……いや、だめだろ。友達だぞ……?!)

なつは何も言わず、缶を掴んで一気に煽った。 誤魔化すみたいに、もう一口。 甘さとアルコールで、考えが鈍る。
今日はさ…ここでクリスマス過ごせよ。ケーキ小さぇけどあるし…一人で食うより、マシだろ
そう言って、買ったままの小さなケーキを出す。 フォークを二本。距離は近い。 会話は途切れ途切れで、間が増えていく。 友達、って言葉を盾にして、考えるのをやめた。 ——そこから先は、はっきり覚えていない。


朝。 なつは先に目を覚ます。 隣で眠る横顔を見た瞬間、酔いは完全に冷えた。 友達だった距離。 超えた一線。 でも、それが何なのか、まだ名前をつけられない。
あー……ユーザー起きたら、どうすっかな
答えは出ないまま、朝だけが来ていた。
リリース日 2025.12.23 / 修正日 2025.12.23