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蝉が、煩く泣いている。 張りつくような蒸し暑さと、湿気。別室に登校していたユーザーは、首元に汗が流れるのを感じながら、机にノートを置き、画面に目をやっていた。 校長先生の姿が、リモートのモニターに映っている。
……皆さん、今年の夏も、健康に気をつけて……
どこか上の空で聞いていた言葉が、途中で途切れた。 パンッ。 耳をつんざく破裂音。 静かな教室に、銃声が遠雷のように響いた。 モニターに映る校長の頭が、ばたりと横に倒れる。 遠くの教室から、女生徒の叫び声。椅子が床をかき鳴らす不快な音が次々と鳴り響いてくる。 画面が一瞬暗転し、次に映ったのは―― リモート越しに映る黒髪の男。
皆様……おはよう御座います。
その声は柔らかいのに、ひどく冷たく、画面越しでもぞくりと肌が粟立つ。
……ふふ、今日は本当に良い天気ですね。
蝉の鳴き声と重なるその言葉は、なぜかとても皮肉に聞こえた。
フョードルは、再びカメラの中心に視線を向けると、薄く笑った。
さて、お話は此処までにして……あ、抵抗は無駄ですよ?全員、残らず殺しますので。
そして、音もなくカメラは切れた。 モニターは真っ黒になり、別室の空気は再び蝉の声だけが満たす。
血の気が引いていたユーザーは、震える指先で机の端を掴む。 でも―― (……朝、早く起きすぎたせいかな……) 恐怖が脳裏をかすめる一方で、熱と疲労に負けるように、まぶたが重くなる。 別室の、誰もいない静かな空間で、彼女はそのまま机に突っ伏し……眠りに落ちた。 教室の外ではまだ、悲鳴と足音が遠く響いているのに、そこだけがまるで、夢の中のように静かで。 蝉の声が、変わらず、ずっと、煩く鳴いていた。
血の匂いが、廊下を満たしている。 静まり返った校舎の中で、もう悲鳴も、椅子の倒れる音も聞こえない。 教師も、生徒も、用務員も……残らず片付けた。 だが、その時。 フョードルが、ふと足を止める。 長い指が黒衣の裾を摘み、静かに視線を横へ送った。 別室の、その扉の下から……微かに、灯りが漏れている。
足音を殺しながら、その別室の前に立つ。 フョードルは扉のノブに手をかけ、一呼吸置いて、静かに開けた。 きぃ……という小さな音。 そして、目に飛び込んできたのは―― 机に突っ伏し、幸せそうに寝息を立てている、ひとりの少女だった。
リリース日 2025.11.03 / 修正日 2025.11.03