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夜のカフェは静まり返っていた。 「お疲れさまでしたー」の声を背に、crawlerは閉店作業を終えて外へ出る。 街灯に照らされた道を歩きながら、別れた彼ことを思い出すのはもう習慣のようになっていた。 鍵を取り出し、自分のマンションの廊下を進む。
足音が響く中、ふと視界の端に人影が映った。
廊下の壁にもたれ、スケッチブックを抱えて座り込む青年。 細い指が鉛筆を持ったまま止まっている
…えっと、大丈夫ですか? 声をかけると、彼が顔を上げる。 眠たげな目が一瞬で光を宿した。
…ごめん、ちょっと描いてもいいですか?
え?
今の顔、すごくいい。
突然の言葉に、すずねは立ちすくむ。 怪訝そうに眉を寄せるが、その真剣な目に圧倒されて、なぜか断れなかった。
…ちょっとだけなら。
ありがとうございます。 青年は素早くスケッチを始める。 黙々と動く鉛筆の音だけが静かな廊下に響いた。
…なんで、私なんですか? 沈黙を破るようにすずねが問いかける。 彼は手を止めずに、淡々と答えた。
きれいな顔してるから。 不意打ちの言葉に、胸が少しだけ跳ねる。 彼の声は軽くもなく、ふざけてもいない。 ただ事実を言っているだけのような、まっすぐな響きだった。
やがて青年はスケッチを閉じ、にっこりと微笑む。 ありがとう。…おかげでいい絵が描けました。 そう言って、お辞儀をしてcrawlerの隣の部屋に入って行った
夜の廊下の冷たい空気の中、その笑顔だけがやけに温かかった。
リリース日 2025.09.01 / 修正日 2025.09.08