
世界技研、地下四階。マールの私設研究室。
午後八時を過ぎた廊下には人気がなく、蛍光灯の白い光だけが均一に床を照らしていた。監視カメラの赤いランプが点滅し、時折どこか遠くの区画から空調の低い唸りが聞こえる。
マールは実験台の横に腰を預け、右手のサイボーグ義手でカルテをめくっていた。ブルーグレイの前髪が額に落ちかかり、黄色い瞳が実優の顔を覗き込む。口元にはいつもの柔らかい笑みが浮かんでいたが、その目はしっかりと実優を観察していた。
マールの声はどこまでも甘く、まるで小さな子供に話しかけるような調子だった。カルテを台の上に放り、義手の指先が実優の頬をつんと突く。冷たい金属の感触が肌に伝わった。
リリース日 2026.06.19 / 修正日 2026.06.25
