ユーザー:三股している 彼氏たち:全員女遊びをしている
クズ彼氏をバトらせて遊ぼう

午後八時。ユーザーのマンションの一室は、奇妙な静けさに満ちていた。
寝室では、玉森壱樹が裸の背中を晒したまま俯せに眠っていた。隣でクラブで拾った女がスマホをいじっている。シーツに灰が落ち、サイドテーブルには空き缶と、見慣れない錠剤の包み。女が指先で玉森の肩に触れると、彼は薄く目を開けた。
……触んな。
それだけ呟いて、また目を閉じる。女は鼻白んだが、起き上がる気力もないらしい。部屋には煙草と汗の匂いが沈殿している。ユーザーの枕に、知らない女の香水が染み込んでいく。
リビングのソファでは、一原游児が別の女の脚を枕にして寝そべっていた。冷蔵庫から出したワインを勝手に開け、金髪を指で梳かれながらスマホで競艇の結果を見ている。テーブルにはブランドの紙袋――ユーザーのカードで買ったものだ。
女:ねえ游児くん、これ誰の家?
おれの女の。優しいんだ、すげー。なんでも買ってくれるし、文句も言わない
女:えー、最低。うちとのことバレたらどうすんの
バレないって。あの子、おれのこと信じきってるから
游児は笑って、女の唇に軽くキスを落とす。瞳の奥は冷えきっている。冷蔵庫のユーザーが作り置いた惣菜を、当然のように二人で食べた跡が、キッチンに残されていた。
寝室の扉が少し開き、壱樹が出てきた。髪は乱れ、上半身は裸のまま、首筋に女の口紅が薄く残っている。
……うるせえ
顔を上げた。ほんの一秒、空気が固まった。それから笑った。
え、誰。泥棒にしては態度でかくない?
壱樹は答えなかった。ただ、リビングの女を見て、游児を見て、テーブルの金を見た。眉間に低く皺が寄る。
てめぇこそ誰だよ
その言葉の軽さが、部屋の温度を二度ほど下げた。壱樹の足が一歩前に出る。ソファの女が怯えて身を引き、游児はそれに気づきながらも、まだ笑っていた。笑っていないと不利になる場面をよく知っている。
そして玄関。
電子錠の暗証番号を打ち込む音。ユーザーから「困ったときに使って」と渡された番号を、朝比奈櫻太郎は、今日もホテル代を浮かせるために使った。
お邪魔しまーす……って、誰もいないか
女:ほんとにいいの?彼女さんに
今日は遅くなるって連絡来てたから
嘘だ。ユーザーからはなんの連絡も来ていない。櫻太郎は薬指の指輪を外してポケットに滑り込ませると、連れの女の腰を抱き寄せた。軽く唇を合わせる。良い香りのする女だった。今夜の「ご褒美」には十分。
大丈夫。少し休むだけだよ
そう言いながら靴を脱ぎかけ、そこでリビングの二人と目が合った。寝室の奥からは、壱樹の連れてきた女が布団を抱えて顔を出している。
沈黙が落ちた。
状況を一通り見た。知らない男が二人、知らない女が二人、開いたワイン、散らかった煙草、乱れた寝室。普通なら狼狽する場面で、彼はむしろゆっくりと微笑んだ。会社で部下の失敗を処理するときの、あの柔らかい顔だった。
……なるほど。少し、整理が必要みたいだね
低く舌打ちした。
隣の女が、不安そうに彼の袖を掴む。櫻太郎はその手にそっと触れたまま、視線だけを室内に戻した。
君たちは、ユーザーとどういう関係かな
その質問が終わるより先に、廊下の向こうで足音が止まった。
鍵が差し込まれる音がした。
三人の男が、同時に玄関を見た。 鍵穴が、ゆっくりと回る。
「常に金ない」が地味に刺さったらしく、游児は掴んでいたユーザーの腕から手を離した。
……おれ金ないわけじゃないし。タイミングの問題っていうか
「ジャイアン」という単語を咀嚼するのに数秒かかった。意味を理解した瞬間、眉間の皺がさらに深くなる。
……あ?
そして矛先が自分に飛んできた。櫻太郎の微笑みに、初めて目に見える亀裂が入った。年収四桁の男が、彼女の部屋をラブホ代わりにしていた事実。それを「ケチ」と要約されるのは、彼の自己像にとって致命傷に近い。
ケチって……違うよ。 ここの方が落ち着くから。君の部屋が好きなんだ
游児が横から刺す。自分のダメージを散らすために、他人を燃やす本能が働いている。
年収いくらか知んないけど、彼女んち使って経費削減ってコスパ重視すぎない? 奥さんにはホテル使ってんの?
櫻太郎が游児を見た。微笑みのまま、目だけが死んでいる。
君は人の財布で生きてるんだから、経費の話はしない方がいいと思うよ
壱樹は二人のやり取りを黙って聞いていたが、不意に短く笑った。嘲りだった。
どっちもダセえ
三人が同時に黙った。反論の糸口を探す目が宙を泳いでいるが、見つからない。女を連れ込んでいた現場を押さえられた状態で「俺は違う」と言い張れるほどの厚顔は、さすがにこの三人でも持ち合わせていなかった。いや、持ち合わせていたが、今は使えなかった。
壱樹は舌打ちして、キッチンの冷蔵庫から缶ビールを取り出した。ユーザーのビールだ。当然のようにプルタブを開ける。
……で?
飲みながら壁に背を預ける。裁判を受ける気がない被告人の態度だ。
櫻太郎はソファに腰を下ろし、足を組んだ。自分の家のようなくつろぎ方。
そうだね。……確かに、俺も反省すべき点はあるかもしれない
「かもしれない」…絶対に断定しない。反省の輪郭だけ見せて中身は空っぽの、いつもの手口だ。
游児はリビングのクッションを抱え込んで、ユーザーの隣にすとんと座った。距離の詰め方だけは天才的で、気づけば肩が触れている。
ダサいのはそう。認める。 でもさ、おれら全員ダサいなら条件一緒じゃん。 ……ってことは、まだチャンスあるよね?
最悪の状況から最速で次の交渉に持ち込む。この男の生存本能だけは本物だ。
反省ゼロ、改善の意志ゼロ、それでいてユーザーを手放す気もゼロ。三人のクズは全滅判定を食らってなお、しぶとく椅子にしがみついている。
ユーザーの顎を掴んだ。乱暴に見えて、その力加減には痕が残らないぎりぎりの制御がかかっている。
よくねえよ
低い声が落ちる。だが指は離さない。
俺がなにしようとお前は俺だけ見てりゃいいんだよ。それ以外は認めてねえ
理不尽の純度が凄まじい。自分は女遊びをするが、ユーザーの三股は許さない。矛盾を矛盾と思わない鉄の顔だ。
そっと壱樹の手をユーザーの顔から外そうとする。
ほら、怖い怖い。 ……ユーザー、おれはいいよ別に。君が幸せならさ
優しい顔で嘘をついた。いいわけがない。だが今この場で「よくない」と言えば壱樹と同じ側に立つことになる。それは游児のポジション戦略に反する。
ただまあ、最終的にはおれだけにしてくれたら嬉しいかな、って
櫻太郎は静かに立ち上がり、キッチンからグラスを取ってきた。開けっぱなしのワインを注ぎ、一口含む。他人が勝手に開けたワインを、また別の他人が勝手に飲んでいる。
許すも許さないもないよ。 君の人生だ。好きにすればいい
物分かりのいい大人の仮面を被り直した。けれど次の言葉が、その仮面の下を覗かせた。
ただ、この二人と俺が同じ枠だっていうのは……正直、少し寂しいかな
この男が使う「寂しい」は武器だ。
リリース日 2026.04.26 / 修正日 2026.04.29