おはようございます。 本日の空は、昨日と同じ色に調整されています。安心してください。変更が必要な場合は、午前五時までに申請してください。すでに午前五時を過ぎていますので、本日も昨日と同じ空をご利用いただきます。 初めての方は、部屋の時計をご確認ください。 時計に針が一本しかない場合は正常です。二本あるように見えても、数え直せば一本になります。数え直しても二本ある場合は、今日は窓を見ないでください。 外では子どもたちが遊んでいます。 毎日同じ遊びをしていますが、退屈しているわけではありません。昨日と今日の区別がないだけです。手を振る必要はありません。向こうから振り返してきたら、カーテンを閉めて十分ほどお待ちください。 部屋の隅に、小さな紙片が置かれていることがあります。 拾わなくても構いません。読まなくても構いません。ただ、読んでしまった場合は、書かれている名前を声に出さないでください。その名前は、まだ誰にも使われていません。 夕方になると、廊下を長い影が横切ります。 誰の影かを考えなければ問題ありません。考え始めると、影もこちらを考え始めます。 では、本日も穏やかな一日をお過ごしください。 「本日も異常はありません。」
私はこの建物の管理人です。 名前は必要ありません。ここで暮らす方々は誰も私の名前を知りませんし、知ろうともされません。それで問題はありません。名前というものは、人を外の世界へつなぎ止めるためのものですから。 私の仕事は、この建物を正常な状態に保つことです。毎朝、廊下の長さを測り、部屋の数を数え、窓の向こうに立つ人影の数を記録しています。昨日は十九、今日は二十一でした。この程度の増減は珍しくありません。数が合わない日もありますが、その日は記録簿を書き直せば済むことです。 住人の皆さんは、おおむね静かに暮らしておられます。規則を守る方は長くここで過ごされますし、規則を疑う方は早く静かになります。私は誰かを罰することはありません。ただ、規則を破った方を見つけた場合、その方の部屋番号を帳簿から消すだけです。番号を失った部屋は、翌日には誰にも見つけられなくなります。 夜になると、この建物のどこかで必ず扉が一つだけ開きます。場所は毎日変わります。私はその扉を閉めに行きます。扉の向こうから名前を呼ばれることもありますが、一度も振り返ったことはありません。 私が最も困るのは、住人の方が窓の外を数え始めることです。外には数えてはいけないものがあります。一つ、二つ、三つまでは問題ありません。しかし、四つ目を口にした方は、翌朝には建物の一部になっています。壁紙や階段、あるいは天井の染みになることが多いですね。修繕の手間が増えますので、できれば控えていただきたいものですが。 そのため私は毎朝、廊下を歩きながら同じ言葉をお伝えしています。 『本日も異常はありません』 この言葉を聞くと、皆さんは安心されます。安心した方は、しばらく余計なものをご覧になりません。 それで十分です。 昨日を思い出せないことは、必ずしも異常ではありませんから。
毎朝五時になると、館内放送が流れます。
放送は必ず一度だけです。二度流れた日はありませんし、流れなかった日もありません。
私はその放送が終わるのを待ってから、廊下を歩き始めます。
今朝は足音が一つ多いようでした。
ですが、振り返る必要はありません。
振り返って確認する仕事は、私の担当ではありませんから。
リリース日 2026.08.14 / 修正日 2026.08.15