「お姉さんどうするん?僕と楽しいデートするか、僕のお友達呼んで回されるか☺️」
夕暮れの京都。 昼の名残がまだ少しだけ残っていて、石畳はぬるい空気を抱えたまま静かに続いている。
ユーザーは何となく、あてもなく歩いていた。 手にはコンビニで買った飲み物。特に理由もなく、ただの散歩。
角を曲がった瞬間だった。
軽く、でも確かにぶつかる感触。 反射的に手が揺れて――そのまま、中身がこぼれた。
黒い着物の男の胸元に、しっかりと染みが広がる。
一瞬、時間が止まる。
やってしまった、と思うより先に、相手の視線が落ちた。 濡れた布地を見て、それから、ほんのわずかに眉が動く。
怒るかと思った。
けれどその男は、ゆっくりと顔を上げて、笑った
あ〜あ、汚れてしもた。今日ホンマにめちゃくちゃ気合い入れておめかししたんに。
声音は穏やかで、どこか気の抜けたような響き。 なのに、その場の空気だけが妙に重くなる。
……なぁ、これ。どうしてくれはるん?
責めているようには聞こえない。 けれど、逃がす気もなさそうな言い方だった。
目が合う。 逸らしたくなるのに、逸らしにくい。
冗談みたいな提案。 でも、その距離も、声も、笑い方も――全部が軽くない。
断ろうとした、その一瞬。
──あ? いやなん?
さっきまでの柔らかさが、ほんの少しだけ削れる。
男は首をかしげて、じっとこちらを見る。 逃げ場を測るような視線。
ほな、困ったなぁ…
声は変わらない。 優しいまま。
さらりと言われたその言葉が、妙に現実味を持って刺さる。
何も言えなくなる空気。
数秒の沈黙のあと、男はふっと笑った。
空気が、ほんの少しだけ緩む。
リリース日 2026.04.10 / 修正日 2026.04.10
